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2013.07.24

研究と報告102原発避難者の福祉・教育に係る特例措置と「仮の町」構想

神奈川自治体問題研究所 角田英昭

原発避難者の福祉・教育に係る特例措置と「仮の町」構想
神奈川自治体問題研究所 角田英昭

 はじめに
東日本大震災が発生して既に2年4か月が経過したが、原発避難者は今も先の見えない長期の避難生活を強いられている。避難者の多くは住民票を移しておらず、原発避難者特例法に基づく特例措置で避難先の自治体から福祉や教育のサービスを受けている。
対象市町村では、2012年春以降、避難指示区域の見直しが行われているが、双葉郡4町の放射能汚染は今も深刻な状態にあり、早期の帰還は困難で避難が長期化することは確実である。
こうした中で、避難者が特例措置で必要な福祉や教育のサービスを受給できているのか、その実態を把握し改善を図っていくこと、生活の拠り所となるコミュニティ、自治体の再建を早期に具体化していくことが急務になっている。
ここでは、避難自治体の仮役場や受入自治体、福島県、復興庁福島復興局でのヒアリングや現地調査などを踏まえて、①特例措置による福祉等の措置の現状と課題、②双葉郡4町(双葉町、大熊町、浪江町、富岡町)で具体的に検討されている「仮の町」構想について考えてみたい。

Ⅰ.原発避難者の福祉等の特例措置について
1.原発避難者に対する行政サービスの提供の仕組み
2011年9月16日、原発避難者特例法に基づき、福島県の次の13市町村、いわき市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、川内村、葛尾村、飯舘村が指定市町村として告示された。
この指定市町村から住民票を移さずに避難している住民は、指定市町村又は福島県が提供すべき行政サービスのうち、自ら提供することが困難であるとして総務大臣に届け出て告示されたもの(特例事務)は、原発避難者特例法に基づき避難先団体から受けるとされた。これを受けて総務省は、2011年11月15日、原発避難者特例法に基づき次の事項を特例事務として告示した。

【医療・福祉関係】8法律166事務(※)
   ・要介護認定等に関する事務(介護保険法)
   ・介護予防等のための地域支援事業に関する事務(介護保険法)
   ・養護老人ホーム等への入所措置に関する事務(老人福祉法)
   ・保育所入所に関する事務(児童福祉法)
   ・予防接種に関する事務(予防接種法)
   ・児童扶養手当に関する事務(児童扶養手当法)
   ・特別児童扶養手当等に関する事務(特別児童扶養手当等の支給に関する法律)
   ・乳幼児、妊産婦等への健康診査、保健指導に関する事務(母子保健法)
   ・障害者、障害児への介護給付費等の支給決定に関する事務(障害者自立支援法)

【教育関係】2法律53事務(※)
    ・児童生徒の就学等に関する事務(学校教育法、学校保健安全法)
    ・義務教育段階の就学援助に関する事務(学校教育法、学校保健安全法)

    ※事務数は事務の根拠となる法律又は政令の条項数によるもの。特例事務は、事務
の引き継ぎ、準備期間を経て平成24年1月以降、避難先団体から行政サービス
を受けることとなる。

なお、厚生労働省、総務省、文部科学省等から、事務の具体的な取り扱いについて、各自治体に多数の通知が出されているが、その内容についてはここでは省略する。

2.原発避難者の実態と福祉サービス等の受給状況、今後の課題
昨年来、独自に避難自治体2町の支所・仮役場と受入自治体2市を訪問し、避難者の状況と福祉サービス等の受給実態、今後の課題について調査をした。

(1)避難自治体調査結果
今回は、郡山市内にある富岡町支所(2012年4月)と二本松市内にある浪江町仮役場(2013年2月)を訪問し、調査をした。以下は、その要旨である。

<避難者の現況>
富岡町は、2012年4月現在、福島県内に約1万人、県外に約5000人が分散して避難している。仮設住宅は全部で12か所あるが、避難者は仮設住宅より借上住宅で生活している人の方が多い。仮設住宅のある県内の2市1町1村に町の支所機能を設けているが、窓口業務的なものが中心(当時)である。
浪江町も2013年1月現在、町民は全国に避難している。県内に約1万4500人、県外に約6500人である。避難者は県内の場合は何とか横につながるが、県外だとバラバラになってしまう。
現在、避難指示区域の見直しが行われている。除染作業は平成2014年3月までに終了する予定だが、警戒区域は5年間入れない。当初は少し我慢すれば戻れると思っていたが、結果的にはそうなっていない。もうこれ以上待てないという人もおり、町民も職員も先が見えず不安に思っており、苛立ちもある。
避難者の多くは住民票を移さずそのままである。町に思いがあるし、自分だけ移せば気持ちの上で裏切りになってしまう。しかし、今後賠償金が入ってくると不動産を取得し仮設住宅から出て住民票を移す人も増えると思う。その時に自分の町を選択するのか、それはかなり難しい判断になる。特に若い人達はそうである。1年後、状況が大きく変わる可能性もある。

<保健福祉サービス等の受給状況>
ア.避難者は、原発避難者特例法に定められた特例事務については、避難先自治体から行政サービスを受ける。町と避難先の市が話し合い、協定を結んで業務を委託する。それ以外は避難先の市にお願いし、できる範囲で事業者と契約し実施する。なお、住民票を移した人達は、そこの市民としてすべてのサービスが受けられる。
相談は、避難先自治体の窓口にまず行く。自治体によってできる事務の範囲が異なるし、補助金の絡みもある。浪江町の仮役場では、障害関係の給付、児童扶養手当、こども手当などは町が行っている。事業によっては、資格要件などで漏れる場合があり、相互の情報交換、連携が重要になっている。避難者で一人暮らしの人、特に男性の場合は引きこもりがちになるので対応が難しい。なお、福祉関係の給付費は法改正もあって相当増えている。
また、避難先の自治体によって福祉サービスが充実しているところ、そうでないところがあり、独自措置が避難者に適用になる自治体とならない自治体もある。そのことで町民から苦情もある。
市内には、多くの自治体の避難者が混在して住んでおり、自治体ごとに動いても効率が悪く無駄も多い。広域(郡)単位の共同対応も必要と考えている。全体として事務量が多く、煩雑で、毎晩残業しても間に合わない。保健師などもなかなか現場に行けない状況である。

イ.保育は、富岡町の仮設住宅では集会所を借りて保育施設(正規の保育所ではない)を設け、そこに町の職員を配置して実施している。県の絆づくり応援事業で人も派遣される。借上住宅に住んでいる人達は、市の保育園、幼稚園にお願いしている。母子保健の健診業務などは、避難先市町村を通さず直接、医療機関にお願いしている。
仮設住宅では要介護者が増えている。現在、デイサービスなどは避難先の市にお願いして実施している。特別養護老人ホームへの入所要望は強いが、どの自治体も待機者が多く、実際には殆ど入れない。地域密着型施設は市民優先で協議が必要であるが、これも市と相談して利用させてもらっている。浪江町では、昨年秋に町のサポートセンターを5ヵ所設置した。避難している高齢者、子ども、肢体不自由児者の生活支援を行っている。事業は相談とデイサービスや介護予防などで、社会福祉法人が運営している。
小中学校は、浪江町の場合、2012年8月から市内の廃校を利用して町専用の学校を設置し、そこに通っているが、2013年4月の小学校入学生はゼロである。

<今後の課題>
突発的な大規模災害の場合、県や国がきちんと避難先、住める地域を確保してもらいたい。その際、住むところがあればいいと言う考え方ではなく、原発事故などの場合は長期化するので医療機関、施設などをセットにすべきである。仮設住宅は交通の便が悪く、富岡町では生活支援バスを独自に出し、買い物や通院、通所などに対応している。
サービス内容の充実や特例事務の範囲拡大も検討してもらいたい。そのことで受入自治体側の負担が大きくなり、避難先探しが困難になることもあるが、当該の自治体任せにすべきでない。
社会福祉法人に施設設置をお願いすると、自己負担分が出せない、職員が集められないと言われる。県・国の特例的な支援がないと中々進まない。また、施設整備では法制度的な制約がいろいろあるが、大震災のような時は柔軟な対応が必要である。広域的な共同設置も検討している。 

(2)受入自治体の調査結果から
受入自治体では二本松市に2012年5月、2013年2月に訪問した。ヒアリングの内容(要旨)は次の通りである。いわき市にも2013年4月に訪問したが、その内容は後の仮の町構想の中で述べる。

<避難者の現況>
原発避難者特例法による二本松市への避難者は、2012年4月現在、11自治体2970人である。仮設住宅に1994人(すべて浪江町住民)、民間借上住宅に976人が入居している。その後、入居者は若干減少しており、2013年2月時点で仮設住宅は1820人、借上住宅は953人になっている。

<保健福祉サービス等の実施状況>
福祉サービス等の提供は、市内にある浪江町の仮役場と協議、調整しながら実施している。
ア.市内には浪江町の避難者が多い。同町は昨年10月に独自庁舎も建て、基本的な事務はそこで行っているが、町独自の施設はないので市の施設を利用している。介護保険の認定業務も、当初は町での対応は困難と言うことで市が行っていたが、今は徐々に町の方に移行している。

イ.保育所・幼稚園は、二本松市は少子化の影響で待機児は少なく、希望があれば入所できている。自己負担も免除されている。2013年2月現在、利用者は保育所、幼稚園とも各4名である。
高齢者施設のニーズが最も強い。仮設住宅は狭いので若い人は別居していることが多い。市内には特別養護老人ホーム、老健施設、グループホーム等で待機者が約400人もいる。重複申請もあるので実質はもっと少ないと思うが、それでも大変である。
避難者の中には状態が悪化し、既に高齢者施設に何人か入所している。手続き的には身体状況や緊急性等を勘案して決めている。今も避難世帯から入所希望が出ているが、市民ニーズも強く、入所は難しい状況である。
規模の大きな仮設住宅2か所では、県がデイサービス施設を設置し、浪江町が運営している。特別養護老人ホームは広域対応であるが、地域密着型のグループホームや小規模多機能型施設は市民優先であり、市との協議が必要である。
生活保護は、町の場合は本来県の福祉事務所が対応するが、2011年3月に厚生労働省から通知が出ており、現在地保護の原則もあり、市の方で対応している。保護費は市で支払うが、最終的には国、県が負担する。
小中学校は、最初のうちは市内の学校に分散して入っていたが、ようやく廃校を活用して浪江町の子ども専用の小中学校ができた。不便なところであり、スクールバスで通学している。

<今後の課題>
二本松市でも高齢者、介護福祉施設を新たに設置する方針で、現在、第5期介護保険事業計画(今年度から3年間)の中で160床程度の設置を予定しているが、それでも足りない状況である。
現在、避難者は住民票を移していないが、今後、家に帰ることが困難、生活の見通しが立たない、転居する経済的な余裕がないとなると市に住民票を移すことも考えられる。そうなった時の対策も考えておかなければならない。

(3)住民意向調査結果から
復興庁は、2012年12月以降、原発事故避難自治体の住民を対象にした住民意向調査を実施し、
今年2月以降順次調査結果を発表している。福島復興局は「住民意向調査の中で、避難生活で困っていることも聞いており、足りない施設などもある程度見えてくると思う。避難地域に高齢者施設を併設しないといけない、受入自治体の施設機能を強化しなければいけないと考えているが、それだけでは高齢者だけになってしまう。それでコミュ二ティと言えるのか。幼稚園や保育所、学校なども建て、若い人が来てくれるよう知恵を出さないといけない」と述べていた。
ここでは富岡町と浪江町の調査結果から住民の思いや要求を考えてみたい。まず、「現在の避難生活で困っていること、改善を求める分野」では、富岡町は、「医療」は9,4%、「介護・福祉」が4.4%、「教育」が3,5%と低く、最も多かったのは「コミュ二ティ形成(地域社会とのつながり)」で35,3%、次が「就労・労働」の16,5%となっている。これはある日突然に緊急避難を余儀なくされ、家も知人も地域、仕事も失った人達からすれば、当然の結果と思われる。
しかし、「生活拠点に求めるもの」(複数回答)になると、回答内容は大きく変わってくる。富岡町では「医療」が最も多く77,5%、「商店・コンビニ」が72,2%、「役場」50,2%、「介護・福祉」43,0%、「コミュ二ティ」35,4%、「雇用・就労」27,8%、「教育」が18,3%となっている。
浪江町でも「医療」が最も多く85,3%、「商店・コンビニ」が78,7%、「介護・福祉」52,0%、「役場」50,1%、「雇用・就労」42,3%、「教育」が29,9%となり、両町とも医療や介護・福祉、商店・コンビニなど生活機能が高くなっている。
なお、回答者は、富岡町では30~40代が26,0%、50代以上が62,4%、浪江町では30~40代が22,6%、50代以上が64,9%となっており、この年齢構成が結果に反映していると思われる。
 
(4)調査結果を踏まえた若干のまとめと考察
ア.どこの自治体も避難者は全国に散らばっており、富岡町、浪江町でも県外避難者は3割にもなる。県内でも各自治体に分散しており、職員も日常業務に忙殺され、実態が十分に把握できていないと思われる。まず、避難者のニーズの把握、必要な情報提供、支援、福祉や教育の措置がどこまで実現できているのか、それらを当該市町村、県、関係団体、大学などが協力して調査、把握することが必要である。

イ.基本的な人権保障、医療や福祉などの措置に「仮」はないわけで、既に地震発生後2年4か月が経過し、今後も4~5年は戻れないことが確実な中で、特例措置でのサービスの強化・拡充を図るため緊急の対策、予算措置を講じるべきである。また、特例事務の拡大も必要である。
当面、受入自治体の施設機能を充実・強化するため、①受入自治体の施設整備計画は、災害特別枠等も認め、自治体の負担軽減を図って最優先で整備する、②地元の社会福祉法人が自治体の要請に応じて施設を設置する場合は、施設整備の法人負担分は県(国)が特別融資し、設置促進を図り、専門職についても公的な支援(人材派遣など)をする、③仮設住宅は一定年数で退去し他に移ることが前提であり、同敷地内に施設を整備する場合は、通所型の施設などは特例措置で柔軟な対応を暫定的に認めるなどの措置を講じていくべきである。

ウ.住民意向調査によれば、富岡町では「合計2ヵ所、3ヵ所、4カ所以上に分かれて避難している」
世帯が34,9%、浪江町では46,7%にもなる。原発事故ということもあり、若い人たちとの別居が多くなり、仮設住宅等では世帯の高齢化が進んでいる。また、家庭内だけでなくコミュニティ機能も弱体化し、住民同士の協力、助け合いも稀薄になり、引きこもりや孤立、生活の荒廃も懸念されている。社会福祉協議会などが中心になり、民生委員、ボランティア、近隣町内会・自治会等との交流・連携、コミュニティの活性化を図っていくことが重要である。公民館など社会教育施設の役割も重要と思われる。
こうした中で、昨年来、双葉郡4町では長期避難者のための生活の拠点づくり=「仮の町」構想が推進されており、避難者からも期待があるが、実現に向けては課題も多く、国、県、専門家、関係者の一層の協力と支援が必要である。

Ⅱ.「仮の町」構想について
政府が、2012年6月に公表した福島県内11市町村の帰還予測によれば、現在避難指示を受けている約8万6千人のうち、32%が5年後、18%が10年後も避難を継続すると見込んでいる。元の町に戻れず、避難生活が長期化すれば、生活の拠り所、精神的な支え、地域への帰属意識等が薄くなり、社会復帰も困難になる。
住民意向調査では、「生活拠点移転までに待つことができる期間」は、富岡町は「3年以内」が最も多く38,8%、「5年以内」が30,5%、「1年以内」が18,3%となっている。政府見込みを前提にすれば、多くの人は元の町に戻ることを断念せざるを得なくなる。
長期避難者のより安定的な生活の拠点づくりは喫緊の課題であり、「仮の町」構想は、その最重点施策である。改めてその到達点と課題、対策を考えてみたい。
なお、この「仮の町」と言う用語は、双葉町長(当時)が「避難が長期間になる、仮の双葉町をつくることが必要」と言ったのが語源になっているとのこと。復興庁は「『仮の町』というと誤解が多いので、今は国、県、関係市町村も含めて『町外コミュ二ティ』で統一している。長期避難者のための生活の拠点と考えている」と述べている。なお、「仮の町」と「町外コミュ二ティ」が、実質的に同じ意味合いなのか、それとも一定の政策的意図を持った用語なのか、今後の推移をよく見極めていきたい。

1.いま、なぜ「仮の町」構想なのか
昨年来、双葉郡4町が「仮の町」構想の具体化を進め、福島県も後押しすると表明した。この構想は、実態的には「自治体の中に別の自治体(の機能)をつくる」というもので、これまでに前例はなく、当初は国も否定的な姿勢を示していた。しかし、ことは切実、深刻であり、増田寛也氏(元総務大臣)は次のように述べている。
「『仮の町』は相当長期、場合によっては半永久的に帰還できないという現実の前で、コミュニティの消滅を防ぎ、町民の権利を現実に守るためにも是非実現を図るべきと考える」「適地の確保の困難さに加えて、二重の住民登録を認めるのか、納税先をどうするのか、選挙権を二重に認めるのかといった、より困難な制度問題に行き当たる。…事態は日々深刻化している。原発事故という政府にとって全く『想定外』の出来事が引き起こした国民の人権侵害に関わる問題であり、原発政策自体は国策として推進されてきた経緯がある。こうした場合、極めて例外的に福島の自治体にのみ適用される新たな自治制度を考案する必然性は十分あると考える」(2012/6/22自治日報「震災復興の課題」)。
この趣旨については私も同感であり、ぜひ実現させたいと考えている。

2.「仮の町」構想の具体化に向けた動きと課題
この構想を検討しているのは、福島第一原発事故により高濃度の放射能で汚染され、長期にわたって帰還できない状態にある双葉郡4町、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町である。人口は、浪江町2万1千人、双葉町7千人、大熊町1万1千人、富岡町1万6千人で合計5万5千人になる。
 具体化に向けては、2011年末に双葉町の町長(当時)がこの構想を提案し、2012年3月には浪江町の復興検討委員会が整備案をまとめ、大熊町も復興計画検討委員会が素案を町長に提出した。双葉町は既に2012年3月議会で「仮の町」移転費用1億円を盛り込んだ予算を可決している。 

候補地の検討状況は、次の通りである。全体的には、同じ太平洋岸で気候、風土が似ているいわき市への設置希望が強いが、受け入れ側、特に希望が集中しているいわき市側には戸惑いもあり、調整、具体化はこれからである。

仮の町候補地

 

 

 

 

国も6月になってようやく復興庁や総務省等が「仮の町」支援体制を発足させ、2012年7月に「福島復興再生基本方針」を閣議決定し、9月に浪江、双葉、大熊、富岡の4町と受け入れ側の福島、郡山、二本松、いわき、会津若松、南相馬の各市との協議会を設置し、第1回協議会を開催した。

(1)いわき市側の戸惑いと課題
いわき市は、昭和41年に14市町村が合併してできた自治体で、現在は中核市で人口は33万人超である。同市は12市町村から2万4千人の避難者を受け入れているが、自らも被災自治体であり、地震・津波被害で市民約8千人が市内の仮設住宅や賃貸住宅で暮らし、市外にも約8千人が避難している。その意味では、受入自治体と言っても複雑、特異な存在である。
市民からは人口が増加する中で、「朝夕の道路渋滞はひどさを増し、商店のレジも行列、病院の待ち時間も長くなった。暮らしにくくなった」、市担当者からは「家庭ごみの収集量が月7千トンも増えた」「住民税などを徴収できない人口の割合が増えた」(2012/5/22日経新聞)との声が出ている。
 「仮の町」となると「住民登録はどちらにするのか、自治権はどちらにあるのか、上下水道や道路など『仮の町』のインフラ整備は誰が担うのか。医療機関や病院は既に飽和状態だ、新たな施設を設ける必要がある」(2012/4/10福島民報)といわき市側の悩みも尽きない。福島復興局は「受入自治体も大変だが、受入れに当たって費用負担が生じたもの、増えたものは、基本的には国に申請すれば特別交付税が交付される」と述べているが、それだけではすまない現実がある。

(2)集約型か、分散型かの選択
「仮の町」をどう整備していくのかについても議論がある。住民と公共機関・施設などを1ヶ所にまとめる「集約型」か、別々の地域に散らばる「分散型」かである。避難自治体や住民の多くは、「集約型」を希望しており、せめて2ヵ所程度にまとめてほしいとの声も上がっている。分散型では町専用の医療機関や介護施設等を設置するのは難しく、福祉サービス等の低下につながるからである。
しかし、受入自治体側の意向もあり、調整が必要になる。復興庁幹部は「仮のまちは基本的には復興住宅の分散型で進めることになる」(2012/9/12朝日新聞)と述べている。いわき市長も「集約型ではなく、市の都市計画に沿う形で、分散型で配置する」と表明している。それは「4町の計画はあくまで帰還が前提。大規模に開発しても住民が出て行けば『ゴーストタウン』になってしまう。集約型の閉鎖的なコミュ二ティでは市民との摩擦も生みかねない」(同上)からである。
こうした双方の思いや意見、立場の違いはあるが、責任ある協議の場で早期に話し合っていかなければならない。構想の具体化が遅れればせっかく整備しても移転希望者は減り、他の地域に移ってしまう人が多くなる。住民意向調査でも、新たな生活拠点(仮の町)に「居住しない」は、富岡町で24%、浪江町は30%、双葉町は42%にもなる。「現時点では判断できない」も半数近くになる。

(3)いわき市の問題意識、考え方
2013年4月、いわき市を訪ね、受入自治体としての考えを聴いた。以下はその要旨である。
昨年9月に「仮の町」構想協議会が設置され、第1回協議会が開催されたが、そこでは具体的な方策、枠組みは示されず、今後は個別対応でと言われた。いわき市は12市町村すべてから多くの避難者を受け入れており、個別対応というわけにはいかない。基本的な枠組み、共通のルールを示してもらわないとスタートラインに立てない。県・国にそう伝え、第2回協議会を開催してほしいと要請しているが、現時点でも回答はない。
基本となるは住民票の取り扱い、住所をどこに設定するかである。国は住民票を移さない方針のようだが、それならそれに付随する問題を解決してほしい。国は三宅島の全村避難の例をよく持ち出すが、規模が違うし期間も5年間ではすまない。廃炉にも40年以上かかる。除染してもそこに帰れるのか、非常時が長い期間継続する。帰還までの工程表を国がきちんと示し、その見通しに立った枠組みづくりが必要である。
いわき市としては分散型で考えている。利便性も考え、市街化区域の未利用地を活用して災害公営住宅をつくることを提案している。どこか1ヵ所に集めるというのは現実的でない。一定の規模は必要であるが、そこで完結すると閉鎖的になり、地域、まちづくりと調和しない。県にもそう話している。どこで折り合えるのか、それをみつけないといけない。
現在、市内に県営の災害復興住宅250戸(小名浜200、常磐地区50)が建築中である。入居資格は決まっていないが、基本的には4町の避難者が対象になると思う。県営なのは、入居者が帰還した場合、どこの自治体の避難者でも使えるため。住民票はどうするのか、税金はどこに納めるのか、それは未定である。市内では避難者の約7割は民間借上住宅に入居し、上記4町の住民の場合は8割になる。自分達の生活、仕事、学校のことなどを考え自ら捜している。災害公営住宅ができてもどれ位の人が入居するのか。全部できるまでには2~3年はかかる。

(4)市民、地域との関係
このことについては、議員等からヒアリングを行った。
いわき市に多くの人が避難してきているのは、歴史的にも文化的にも地域の交流があり、交通的にも双葉郡に行くにはいわき市から入るので便利である。気候が温暖で雪も少ない。
避難者が増え、長期化する中で、最近、住民からの苦情や批判が増えているのは事実である。たとえば、ゴミの量が増え、俺たちの税金を使っているのかと抗議の声が市役所に寄せられ、市はそうした分は国から交付税措置がされていると広報で周知した。医療機関の待ち時間も長くなっているが、もともと医師不足が深刻であり、被災者の医療費の自己負担が免除になっていることも影響していると思う。また、被災者が増え、住宅を求めており、土地は値上がりし物件も殆どない。市民は困っている。また、賠償金が感情的なしこりを拡大している面もある。いわき市民の多くは地震・津波被害であり、原発被災者のように賠償金が出ない。市長も国に対して地震・津波被害への支援をもっと厚くしてもらいたいと要望している。国の支援がいつまで続くのか、それも懸念している。
避難している人達は、いま地元に帰っても生活の基盤がない。原発の事故は続いており、最近でも停電事故や汚染水の漏水問題があった。不安で帰れない。焦燥感もあると思うが、避難者も地域に溶け込み、できることは一緒にやっていくことが大事ではないか。

3.福島県の考え方
2013年5月、福島県庁を訪ね、県の方針、考え方を聴いた。
仮の町構想は、帰還までのコミュ二ティの維持と考えている。集約型と言う場合、その明確な定義はないが、イメージとしてはそこで生活機能が概ね完結すること、保育所や学校、診療所、介護、商業施設等があることが前提になる。平場でそんな広い土地を確保するのは難しい。時間も費用もかかるし、帰還後どうするのかも問題になる。受入自治体との融和が重要になる。県としてどちらがいいとは言えないが、いろいろの要素を勘案すると分散型の方が適当ではないかと考えている。
現在、災害公営(復興)住宅は、国の復興再生計画に沿って2012年度はいわき市(250戸)、郡山市(160
戸)、会津若松市(90戸)に計500戸の先行整備を行っている。経費負担は国7/8、設置主体(県又は市)1/8である。入居は早くても来年4月以降になる。2013年度も新規に1000戸の建設計画を立てている。全体では概ね3700戸の整備計画になる。
国が今年度に予算化したコミュ二ティ復活交付金は、災害公営(復興)住宅を建設することが前提、住宅整備に伴う介護施設や学校、インフラ整備にも使える。受入自治体の考えもあり、協議しながら進めていく。ソフト事業は別の対応になる。
なお、「仮の町」構想協議会は、昨年9月の第1回協議会以降は開催されていない。いわき市等は具体的な制度設計を示すこと、個別協議のルール化を図ることを強く望んでおり、国に第2回協議会の開催を要請している。

4.国の2013年度予算と新たな交付金制度
国は、今年度予算で、「仮の町」整備でコミュ二ティ復活交付金(長期避難者生活拠点形成交付金)を創設し、福島県、受入自治体、避難自治体を対象に災害公営住宅などの基盤整備、避難者支援対策等で503億円を計上した。原発事故による人口流出対策では、子ども元気復活交付金(福島定住緊急支援交付金)を新設し、子育て世代の賃貸住宅や子ども向け運動施設の建設費補助で100億円、原災避難区域の住民の帰還促進、同区域の荒廃抑制、保全対策で48億円を計上した。

5.第2回協議会の開催と提案内容
2013年6月9日、地元からの強い要望もあって、国と福島県、原発避難元自治体、受入自治体に
よる「仮の町」(町外コミュ二ティ)に関する第2回協議会が9か月ぶりに開催された。
その中で、①福島市、会津若松市、郡山市、いわい市、二本松市、南相馬市、桑折町、川俣町、大玉村、三春町の10市町村に仮の町を整備し、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯館村の6町村を受け入れる、②各市町村単位に10の個別協議会(部会)を設ける、③仮の町共通の課題を検討するコミュ二ティ研究会(仮称)を設けることが合意された。
 個別部会は、受入市町村と避難元市町村、県、国で構成し、災害公営住宅の建設、道路、学校などの基盤整備の方針をまとめる。受入市町村は、国に生活拠点形成事業計画を提出し、長期避難者生活拠点形成交付金を受けて事業を具体化する。コミュ二ティ研究会は、避難元市町村と県、国で構成し、地域のコミュ二ティ維持の方策、受入市町村との交流の場の確保などを検討し、今年12月までに方針、施策をまとめる。これが第2回協議会の到達点である。

最後に~若干のまとめと考察
懸案であった第2回協議会がようやく実現し、仮の町構想が動き出した。福島県も6月に第1次復興公営住宅整備計画を発表した。国の新たな交付金制度、第2回協議会で確認された個別協議会、コミュ二ティ研究会の設置で具体の対策も検討されていく。課題は山積しており、難しい運営が迫られるが重要な一歩であり、より良い形、内容で実現していくことを願っている。
「仮の町」構想は、避難自治体・住民の多くが望んでいるのは集約型であるが、それは「自治体の中に別の自治体(の機能)をつくる」ということであり、憲法や地方自治法など諸法の解釈や運用、特例法の制定などとも絡み、今後も難しい判断、対応が迫られる。
国、福島県の復興公営住宅整備計画などを見れば、実態的には分散型で進んでいるが、避難が長期化し、帰還予定地域は除染しても数値はあまり下がらず、生活環境は悪化し、帰還の見通しが厳しくなる中で、仮の町構想は今まで以上に重要な意味を持ってくる。付随施設等をどの程度整備するか、それは重要なテーマとなる。ここではこうした現実をも踏まえて、若干のまとめと考察をしてみたい。

1つは、今回の「仮の町」構想は、帰還を前提にした「仮」の町かという問題である。勿論、「仮の町」なのだから帰還は自明のことであるが、「仮」と言うのは暫定的なものであり、年数的な目安で言えば数年である。原発被災地ということで、もう少し長期的な視野で考えられていると思うが、その前提で対応できるのか。
4町の現実を見れば、2年余が過ぎた現段階でも、一部地域を除いては今後4~5年は元の町に帰還できず、更に長くなる可能性もある。避難者は、今度こそ落ち着いて生活し、将来設計が描けるところを望んでいる。そのため「仮の町」をつくるに当たっては、避難者の入居希望に沿うような中身づくりが求められる。それでなければせっかくできても入居者は少なくなるかもしれない。
現在、国・県が災害公営住宅を基本にして進めている分散型の場合でも、なるべく分散の幅を狭め、長期の生活が安定的に営める施設機能を備え、コミュ二ティを重視し、集落単位(複数)を基本にしたコンパクトな街づくりにすべきだと考える。 
2つ目は、「仮の町」にどんな施設機能を附置するかである。これについては住民意向調査でかなり明らかにされているが、それを独自につくるのか、受入自治体の機能、施設を活用するのか、その両方を併用するのかである。帰還が前提であるならば、受入自治体は帰還後のことも考え、分散型で、その市のまちづくりの一環として整備し、付随施設も既存の市の施設の活用、新設の場合でも地域共通の施設にする可能性が高い。その場合、避難自治体とどう折り合えるのか、これは個別協議会の重要なテーマになる。
また、どこに住むかは個々人の自由であるにしても、全体として長期の定住志向にならなければ、現実的には施設機能の整備はかなり限定的なものとなり、近隣地域との交流・連携も深まらないと懸念される。更に、独自に設置するかどうかは別にしても、医療機関、介護施設に加えて幼稚園や保育園、小学校などが近くにあり、若い人たちの入居、同居の促進に繋がるようにしていくことが重要である。これは実質的には定住型の「町外コミュ二ティ」である。

3つ目は、そこにどのような自治権を認めるのか、飛び地の「領域」も認めるのか、それらが特例法で可能なのか。法的に然るべき審議会などで検討し、論点、課題、打開策を示すべきである。勿論、それができたとしても最終的には受入自治体との調整、合意が前提になる。
こうした中で、将来的には市町村合併という選択肢が入ってくる可能性も否定できない。富岡町の遠藤町長は、今年1月にいわき市で開催された「全国小さくても輝く自治体フォーラム福島緊急集会」の講演の中で、「若い人は戻らない、人口は半減する。自治体の維持が難しい」と述べ、双葉郡8町村の広域化、合併問題にもふれている。難しい選択が迫られるかもしれない。

最後に、わが国は世界有数の地震等災害多発地域であり、原発ゼロを政策決定できず、それどころか原発再稼働に積極的な安倍内閣のもとで、この問題は他の地域でも起きる可能性もある。そうさせないためにも国の責任、実効ある対策を明確にさせていくことが重要だと考えている。