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2017.12.15

地方行政編

 Q1~ Q4 「自治体とは」  本多滝夫(龍谷大学教授)
 Q5~ Q8 「議会と首長」  榊原秀訓(南山大学教授)
 Q9~Q12 「住民とは」  岡田正則(早稲田大学教授)
Q13~Q16 「直接請求・住民投票・住民参加」  豊島明子(南山大学教授)
Q17~Q20 「住民訴訟」  大田直史(龍谷大学教授)
Q21~Q24 「国と自治体との関係」  本多滝夫(龍谷大学教授)
Q25~Q28 「条例」  稲葉一将(名古屋大学教授)
Q29~Q32 「自治体間広域連携」  山田健吾(広島修道大学教授)
Q33~Q35 「地方分権改革」  徳田博人(琉球大学教授)

Q1 自治体と地方公共団体、どこが違うのでしょうか?

 A1 自治体とは、地方自治の保障が及ぶ憲法上の地方公共団体のことをいいます。

〈自治体〉または〈地方自治体〉という言葉は、地方自治に関する基本的な法律である「地方自治法」には存在しません。地方自治法において自治体に相当する用語は、「地方公共団体」です。地方自治法上の地方公共団体は、「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」とに区別されます。普通地方公共団体には、「市町村」という基礎的な地方公共団体、および「都道府県」という市町村を包括する広域の地方公共団体があり、特別地方公共団体には、「特別区」「地方公共団体の組合」および「財産区」があります。

地方公共団体という用語は、〈地方〉と〈公共団体〉の合成語です。このうち〈公共団体〉とは、一般的には、「国家から一定の行政を行うことを目的として設立された団体」をいいます。そのような団体には、土地区画整理組合や社会保険組合といった公共組合があります。

ところで、「地方公共団体」という用語は日本国憲法でも用いられています。日本国憲法第8章「地方自治」においては、「地方公共団体」は国に対して自治権が保障された公共団体であって、その保障の内容は、少なくとも、行政権のみならず、財政権、立法権に及んでいます(憲94条)。このように、〈憲法上の地方公共団体〉は、国と並立する統治団体としての性格を有しています。地方公共団体を他の〈公共団体〉と同じような団体だとして性格付けることは間違いです。

とくに、1960年代から70年代にかけて、高度経済成長政策による公害問題、都市問題等に対する住民運動を背景として、いわゆる〈革新自治体〉が成立しました。革新自治体は、住民のいのちと暮らしを守る砦として、国に対峙するとともに、独自の政策を展開しました。この経験を経て、地方自治の制度主体として憲法が定める地方自治の保障が及ぶ地方公共団体、すなわち〈憲法上の地方公共団体〉を〈自治体〉あるいは〈地方自治体〉と呼ぶことが一般的に受け入れられるようになりました。

 

 Q2 特別地方公共団体は、自治体でしょうか?

 A2 普通地方公共団体は自治体ですが、特別地方公共団体のうち「地方公共団体の組合」と「財産区」は自治体ではありません。「特別区」については議論がありましたが、いまでは自治体とみるべきでしょう。

〈憲法上の地方公共団体〉、すなわち、自治体とは、憲法上の規定を踏まえて、「国の領土の中の一定の区域を地理的存立基盤として、その区域内における公共的な事務を一般的に処理する総合的な統治団体として、国から独立した法人格を与えられたもの」と定義されています。

そうすると、「市町村」および「都道府県」については、上記の定義に当てはまるので、自治体と呼ぶことには異論がありません。

しかし、「地方公共団体の組合」や「財産区」は自治体ではありません。なぜならば、「地方公共団体の組合」(自治284条)─「一部事務組合」(広域消防組合など)および「広域連合」(介護保険広域連合など)─は、自治体が事務の一部を共同で処理するために設置した団体であり、「財産区」(自治294条)は、自治体の一部の地域で財産を有しその管理および処分等のために置かれる団体(山林財産区など)であって、特定の目的のために設立された、担当事務が限定された地方公共団体だからです。

それでは、「都」に置かれる「区」である「特別区」(自治281条)─現時点では東京23区にしかありません─は、どうでしょうか。この問題は、特別区の区長の公選制が一時期廃止されていたときに、ある裁判の争点にもなりました。最高裁判所は、東京都の特別区は市町村のごとき完全な自治体としての地位を有していたことはなく、そのような機能を果たしていないとして、区長の公選制が採られていないことは首長の直接選挙を定めた憲法93条に違反しないと判断しました(最大判昭和38年3月27日刑集17巻2号121頁)。この判決自体については疑問が呈されてきたわけですが、A3で説明するとおり、日本国憲法は市町村と都道府県の2層制の地方自治制度を採用していることに照らすと、特別区の住民には「都」という自治体しか保障されていないとするのは地方自治の保障に反します。また、1998年の地方自治法の改正によって、特別区は市とほぼ同程度の権能を有するに至っています(自治281条2項、283条)。これらの事情に鑑みれば、「特別区」を自治体と呼んでよいでしょう。

 

 Q3 市町村と都道府県、どこが違うのでしょうか?

 A3 市町村は、基礎的な自治体として、住民の日常生活に直結する事務を包括的に処理することを主な役割としているのに対し、都道府県は、市町村を包括する自治体として、広域的な事務を処理すること(広域事務)、規模または性質において市町村では担うことが適当でない事務を処理すること(補完事務)、および市町村に関する連絡調整を行うこと(連絡調整事務)を主な役割としています(自治2条3項・5項)。この対比からわかるように、地方自治法は、市町村を優先させる原則が採られており、都道府県は相対的に補完的な地位にあります。

ところで、地方自治法は、市町村が処理すべき事務は何か、あるいは、都道府県が処理すべき広域事務とは何か、補完事務とは何か、連絡調整事務とは何かを具体的に定めていません。この点について、1999年の改正前の地方自治法は、自治体(主要には市町村)が処理する事務および都道府県が処理する事務をそれぞれ例示していました。

自治体の事務に関しては、たとえば、住民・滞在者の安全・健康・福祉の保持、公園・運動場等の設置・管理、給水・下水道事業等の経営、学校・図書館等の設置・管理などが挙げられていました。都道府県の事務に関しては、たとえば、広域事務として、上水道その他の利水事業、下水道の建設等(旧自治2条6項1号)、補完事務として高等学校、授産施設等の設置・管理等(同4号)、連絡調整事務として市町村相互間の事務処理の裁定等(同3号)、といったものが挙げられていました。

事務の例示規定は、自治体が地域の事務を包括的に処理する権能をもった団体であることからその意義が乏しいとして、1999年の地方自治法の改正で削除されました。しかし、このような規定があれば、住民には、自治体が何をすることができるのか、何をしなければならないのかが一目瞭然です。市町村への事務・権限移譲で都道府県の役割が住民にはわかりにくくなっている昨今、故きを温ねることも必要ではないでしょうか。

ともあれ、住民のさまざま生活需要を満たすには狭域的な事務の処理を行う自治体と広域的な事務の処理を行う自治体の両方が必要です。また、住民の意思が及ぶ自治体としての都道府県が、国と市町村との間に立つことは、基礎的な自治体の自治を確立するうえで必要です。市町村と都道府県の2層制は、日本国憲法が地方自治制度として保障していると考えるべきでしょう。

  

Q4 政令指定都市と都、どこが違うのでしょうか? 

A4 政令指定都市は、他の市町村と同様に、基礎的な自治体であり、大都市行政の合理的効率的運営を図るために、政令で指定された人口50万以上の市であって(自治252条の19)、都道府県が担うべき事務の一部を特例として処理することが認められている自治体です(指定都市、政令市ともいいます)。これに対し、都は、その区域にある市町村と2層制をなして道府県と同様の役割を果たす広域的な自治体であり、その区域の大都市部に、区を置き、当該区域を通じて一体的に事務を処理することが認められている自治体です(自治281条の2第1項)。政令指定都市は、2015年4月1日現在、20市があり、都は、東京都のみです。

政令指定都市にも区が置かれますが、たんなる行政区画です。これに対し東京都の区は「特別区」で、自治体です。政令指定都市の区の区長は公選ではなく、区議会もありません。このように政令指定都市の区においては自治が行き届いていないとの批判があり、後述の大阪都構想の理由の1つともされました。そこで、2014年の地方自治法の改正により、政令指定都市は、市長の権限に属する事務のうち主として区域内に関するものを処理させるため、区に代えて「総合区」を設け、議会の同意を得て選任される総合区長を置くことができることとなりました(自治252条の20の2)。

ところで、特別区は自治体ですが、都の関係で特別な取り扱いがされています。通常の市町村が処理できる事務であっても、行政の一体性および統一性の確保の観点から、特別区の区域を通じて一体的に都が処理することが必要であると認められる事務については、特別区は処理できません(自治281条の2第2項)。東京都では、上下水道、消防などは都が処理しています。

税制にも特別な扱いがあり、東京都では、市町村民税法人相当分、固定資産税、特別土地保有税、事業所税、都市計画税は都税となっており、このうち市町村民税法人相当分、固定資産税、特別土地保有税は財政調整の原資とされ、財源調整交付金として各特別区に交付されています(自治282条)。

今年の5月に特別区設置法に基づき住民投票に付され、否決された、いわゆる大阪都構想(「大阪市における特別区の設置」)は、建前は府と市の二重行政による無駄をなくすというものでしたが、大阪市を廃止して、事務・権限や財源が都に集中する仕組みを大阪府に持ち込み、大阪湾エリアの大規模な再開発を狙いとするものでした。

 

Q5 「二元代表制」や「首長優位」とは、どんな意味でしょうか?

A5 「二元代表制」という表現は、自治体においては、議会を構成する議員だけではなく、首長も住民の直接公選制で選ばれることに由来します(憲93条2項)。首長の直接公選制を強調するのは、歴史的には、首長が革新でそれを支持する議員が議会においては少数派であった革新自治体における住民参加の正当化が関係しています。つまり、首長が住民を代表した議会を軽視しているという批判に対して、議員だけではなく、首長も住民から直接選挙で選ばれており、正当性を有しているとしたかったからです。その後も、参加制度を充実させると議会軽視という批判が繰り返されました。しかし、参加制度の充実は、議会から権限を奪うような性格のものではなく、議会軽視という批判は妥当ではありません。

また、「首長優位」とされるのは、首長が処理する権限は例示的に示された包括的なもので(自治148条、149条)、予算提出権を独占し(自治211条)、議会に代わって専決処分などもできる(自治179条)のに対し、議会の議決事項が限定されており(自治96条1項)、条例制定権が機関委任事務には及ばないなど、議会の権限に限界があり、組織的にも首長が圧倒的多数の公務員を使用できることなどから、そのように評価されたものです。しかし、機関委任事務は廃止され、議会の議決は、自治体にとっての重要事項に及び、条例制定により議決事項を追加できるなど(自治96条2項)、その権限は強力であることから、法制度的に「首長優位」と評価することの見直しが必要になっています。

最近では、ポピュリスト首長による権限濫用を受けて、地方自治法が改正されています。議長等の招集請求に対し首長が臨時会を招集しないときに議長の招集権を認め(自治101条5項)、専決処分から副知事や副市長等の同意を排除し、条例制定や予算に関する措置について議会が承認しない場合、必要と認める措置を講じることを求めるなど(自治179条1項ただし書き、4項)、首長の権限が抑制されたことに注目したいものです。

 

Q6 議会の活動が不活発で議会改革が必要とされることがあるようですが、どのような改革が求められるのでしょうか?

A6 自治体のなかには、議会の活動が不活発なところもあります。必ずしも一時的なものではなく、また、一部の自治体に限定されず、従来から同様のことが指摘されており、繰り返し、議会改革が求められています。

議会改革の方向として、大きく2つの方向があります。1つは、議会は不活発で役に立たないから、それに期待せず、縮小を図るという方向です。こういった考え方に基づいて、しばしば議員定数の削減が提案されます。しかし、一定の議員数が存在しないと、住民の多様な意見が議会に反映されず、議会における議論すら十分に行うことができないことになります。

もう1つの方向は、やはり議会は重要であると考え、議会の縮小ではなく、議会の活性化を目指すものです。現在、こういった方向で最も注目されているのは、議会基本条例を制定し、首長と議員との間の「討議」、議員間の「討議」、議会(議員)と住民との間の「討議」を重視するものです。具体的には、①情報公開、②議会の説明責任、③住民参加(参考人・公聴会活用、請願陳情における市民の提案説明、議会報告会、意見交換会等)、④議員間の自由討議、⑤議員と首長との間の討議(一問一答、首長等の反問(逆質問))、⑥政策情報の提示、⑦議決事項の拡大、⑧議決責任、⑨補佐機構の充実、⑩研修、⑪通年議会等を目指すことになります。

議会基本条例は、既に全国における3分の1ほどの自治体において制定されています。議会基本条例制定は、このように議会改革における1つのトレンドとなっていますが、困ったことに、内容を伴わないものも出てきており、その内容や活用状況にも注目しなければなりません。

議員報酬(自治203条1項)や政務活動費(自治10014項)というカネの問題も改革課題です。大都市部では、議員報酬や政務活動費がかなり高額の自治体もあり、それらの妥当性が問題になります。政務活動費が第2の議員報酬と批判されないよう、透明性・情報公開度を向上し、住民の信頼を得なければなりません。政務活動費を減額し、議員報酬を増額しようとする動向もありますが、結果として透明性を低下させます。他方で、非都市部では、議員報酬が少額すぎ、政務活動費も支給されない自治体もあり、議員活動に支障がないようにしなければなりません。

 

Q7 議会の権限にはどのようなものがありますか、権限の行使における問題としてどのようなことが話題になっていますか?

A7 議会の権限として、まず議決権があります。条例制定や予算の議決などの重要事項が議決事項とされています(自治96条1項)。条例制定により議決事項の追加もでき(同条2項)、実際にも、重要な基本計画等について議決事項の追加を行っている自治体が少なくありません。また、行政の監視・統制権として、「検閲」「検査」や「監査の請求」などができます(自治98条)。また、副知事や副市長などの重要な人事については、議会は同意権をもっています。社会的関心事となる事態の調査のために、100条調査権といったものも認められています。さらに、議会は「自律権」を保障されており、他から自律した行動が認められ、規則制定権(自治120条)や議員の懲罰権(自治134条)などももっています。

議会が権限を適切に使うことが期待されますが、重大問題が生じても、政治的思惑から100条調査権を発動しないなど、権限行使に消極的にすぎることもみられます。反対に、ときに権限の濫用もみられます。

最近話題になっているのは、首長と一体となった権限行使としての権利放棄です。公金の違法支出が住民訴訟で争われているときに、住民訴訟によって自治体が損害賠償請求権などを得たときに、議会がそれも「債権」の1つとして、その権利を放棄することです(自治96条1項10号)。議会が、単に首長をかばうのであれば、安易な放棄として違法となる可能性もあります。カネの無駄遣いに関連して、議員報酬や政務活動費以外にも、議員による視察の適切性が問題とされます。裁判所が、不必要な観光旅行として違法と判断する例もあります。

職員や議員の権利保障との点で問題となる権限行使もあります。神奈川県鎌倉市では、首長と労働組合の交渉により、激減緩和措置を含めて職員の賃金カットを行うことになったのですが、議会が激減緩和措置を削除した条例を議決しました。再議に付されたものの、結局、職員の3分の1が緩和措置無しに賃下げとなっています。また、議員に懲罰が科されるときに、議員の不適切な言動などを理由とするのではなく、多数派議員によって少数意見の抑圧のために科されることもあります。議会は、代表機関だからといって何でもできるわけではなく、とりわけ権利制限のために権限を行使するときには慎重な態度が求められます。

 

Q8 議会における首長に対する議員の質問の限界として、どのようなことが問題となりますか?

A8 議会における首長に対する議員の質問は、自治体行政の問題点や争点を明らかにする活動として重要なものです。極端に質問時間を短くする議会の対応などには問題があり、議員の質問権はきちんと保障されなければなりません。

最近、安保関連法案が国会で審議されているときに、京都府京丹後市議会において、同法案にかかわる議員の質問が議長によって遮断される事態が発生しました。質問時間の制限以上に、重大な事態だと考えられますので、もう少し具体的にみていきます(『京都民報』2015年7月5日4面参照)。

2015年6月18日の一般質問で、日本共産党の議員が同市にある米軍レーダー基地が有事の際には標的になる危険性があり、米軍の戦争を支援する同法案と関連性があると指摘した上で、同法案に対する市長の認識を質しました。この質問後、議長が議事に割って入り、防衛や外交などに関する事項は地方議会では質問できないとする本(地方議会研究会(代表者野村稔)編著『議員・職員のための議会運営の実際2』(自治日報社、1985年)173頁)を引用し、市の事務の範囲内での質問を求め、市長は答弁に立ちませんでした。翌19日にも、同党の別の議員が集団的自衛権と安保関連法案について市長に見解を質したものの、議長はやはり防衛に関することなので質問として認めるわけにはいかないとしました。

しかし、このような議長の対応は、まったく不適当としか言いようがありません。まず、議員の質問権の重要性に照らして、一般的に、議長は、議員の質問の制限には慎重であるべきです。このような対応は、地方分権改革によって実現した国と地方の役割分担の危険を如実に示すものでもあります。防衛や外交は国の役割で、自治体は口を出すなということを、国ではなく地方議会の議長が述べているだけにより深刻です。防衛や外交に関しても、国の政策が自治体の事務権限にまったく影響を与えないといったことは、むしろまれなことだと思われます。安保関連法制の場合、憲法研究者の多数が指摘するように違憲の疑いが濃く、自治体として対応に苦慮する可能性もあります。京丹後市の場合、米軍のレーダー基地もあり、そもそも他の自治体とは異なる状況にあります。実際には、他の地方議会でも、首長に質問がなされており、京丹後市の議長の対応は、いかなる正当化もできないと考えられます。

 

9 外国籍の人も、会社のような団体も、別荘に住んでいる人も、「住民」でしょうか?

9 「住民」について、地方自治法10 条1項は「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」と定めています。つまり、ある人がある自治体の区域内に住所を有するならばそこの「住民」ということになります。したがって、そこに住所を有する者は、外国籍の人でも、会社のような団体であっても、すべてその自治体の住民ということになります。

一時的に滞在するだけの居住者、例えば別荘に住んでいるような人も、場合によっては住民と同じように扱われます。山梨県の旧高根町(現北杜市)が水道基本料金の改定において、一般住民の契約者に関しては1300円から1400円への値上げであったのに対し、別荘居住者に関しては3000円から5000円へ値上げをしたことについて、このような料金設定が違法だとして別荘居住者らが争った事件がありました。水道施設は公の施設の一種であり、住民に対してその利用について「不当な差別的取扱い」をしてはならないこととされていますが(地方自治法244条3項)、住民と住民以外の者との間では、利用条件に大きな差異を設けても「不当な差別的取扱い」にはならないと解されています。最高裁は、別荘居住者も当該自治体に対して一定の地方税を負担していることなどに着目して、これらの者が「住民に準ずる地位にある者」と認め、前記のような料金設定が「不当な差別的取扱い」にあたり無効だと判断しました(ただし原価計算に基づく料金の格差は許容されるとしています)。

住民の資格をもつことは、生活を送る上で不可欠の権利行使や利益の享受、あるいは一定の負担等の基礎になりますので、きわめて重要です。地方自治法10 条2項は住民の役務(サービス)受給の権利を定めていますが、住民はこれにとどまらず、政治過程への参加やリコール等の権利、さらには憲法上の諸権利の実現を、自治体に対して求めていくことができます(A9~A12の参考文献として、岡田正則ほか『地方自治のしくみと法』[自治体研究社、2014年]第3章[豊島明子執筆]があります)。

 

10 日本人住民と外国人住民とでは、権利保障の点でどのような違いがあるのでしょうか?

10 現在、日本にはたくさんの外国人住民が暮らしています(2014年末の統計で約212万人)。第2次世界大戦の終了後に至るまで、台湾や朝鮮半島の出身者も日本国籍を有していましたが、1947年5月2日の外国人登録令によってこれらの人々は法制度上で──国籍選択の機会を与えられることなく──外国人とされ、その子孫を含めて「特別永住者」の在留資格をもつ住民となりました(この50年間で70万人台から50万人台に漸減しています)。一方、1980年代に入ってから、労働者として来日し在留する外国人が急増しました。

このような外国人住民の増加にともなって、国と自治体は、住民を正確に把握して基礎的行政サービスを提供するための基盤整備の必要に迫られました。そこで2009年7月、政府は住民基本台帳法を改正して外国人住民についても同法を適用することとし、この結果、2012年7月以降、外国人住民についても住民票が作成されることとなったのです。

外国人の権利保障に関しては、国民と同様の保障が及ぶかという論点があります。判例・学説は、「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き」日本に在留する外国人にも等しく保障が及ぶ(最大判197810・4、マクリーン事件判決)、という権利性質説をとっています。

選挙権・被選挙権について、公職選挙法や地方自治法はその保有者を「日本国民たる住民」に限定しています。最高裁は、現行法によるこのような限定を合憲としましたが、法改正が行われれば外国人住民にも選挙権等の地方参政権が認められるとの認識を示しました(最判1995・2・28、定住外国人選挙権訴訟判決)。「外国人市民代表者会議」や住民投票条例における外国人住民の投票権の保障など、自治体レベルでの制度化の例もみられます。

公務員の任用に関しては、「日本国籍を必要とする」という“当然の法理”は克服されつつある一方、管理職への任用に関しては、自治体の判断で日本国籍保有者に限定することも許されるという最高裁の判断があります(最判2005・1・26、東京都管理職選考国籍条項事件判決)。また社会保障分野では、難民条約の批准などによって平等化が進んできましたが、生活保護法の適用については、外国人住民は対象外とされています(最判2014・7・18、大分県生活保護国籍要件事件判決)。いずれも、今後批判的な検討が必要な判決です。

 

11 「ここに住みたい」と思えば、その自治体の住民になれるのでしょうか?

11 ある自治体の住民になるためには、その区域内に住所を有する必要があります(前述の地方自治法10 条1項)。「住所を有する」というためには、民法22条からの類推で、そこを「生活の本拠」にしていなければならないと解されています。

では、ある場所を生活の本拠にしたいと思えば、誰でもその場所を管轄する自治体の住民になれるのでしょうか。宗教法人アレフ(その前身は「オウム真理教」)の信者が転入届を提出したところ、いくつかの自治体がこれを拒否するという事件がありました。最高裁は、「転入届があった場合には、……区域内に住所を定めた事実があれば、法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として転入届を受理しないことは許されず、住民票を作成しなければならない」と述べて、転入届の受理の拒否を違法だとしました(最判2003・6・26)。自治体は憲法上の移動の自由を保障しなければなりませんから、転入を拒否することはできないのです。

「生活の本拠」の有無が問題になった例として、元長野県知事の田中康夫氏が知事在任中に泰阜村に納税したいという動機で長野市から同村に住所を移転した事件があります。裁判所は、同村に田中氏の「生活の本拠」がないとして移転を認めませんでした(最判20041118)。一方、単身赴任者のように、家族の住所地とは別に「生活の本拠」を置くことになった場合には、選択により、家族の住所地も住所と認めるのが行政実務です。

以上のように、住所の有無は、「生活の本拠」という客観的事実を基礎としながら、定住の意思という主観的要素も考慮に入れて判断されています。

このような客観的事実と主観的要素を備えているにもかかわらず「住所を有していない」と判断された例もあります。公園内にテントを設置して居住していたホームレスがテントの所在地を住所であるとして転居届を提出したところ、その受理を自治体が拒否した事件です。第1審の大阪地裁はこの拒否を違法としましたが、最高裁は「社会通念上、……テントの所在地に住所を有するものということはできない」と述べて、これを適法と判断しました(最判200810・3、大阪市転居届不受理事件判決)。ホームレスである人々の権利を保障するためには、公園であっても暫定的に住所と認めた上で、適法な居住へと移行していけるような支援を講じるべきでしょう。

 

12 原発災害の避難者は、同時に避難元・避難先自治体の住民になれるのでしょうか?

12 住民という資格の有無は、原発災害の長期避難者にとって切実な問題となっています。福島第一原発の事故から5年を経た現在でもなお、約10 万人の方々が避難生活を送っていますが、とりわけ、原発立地自治体である大熊町とこれに近接する双葉町・富岡町・浪江町(双葉郡4町)は、区域の大半が帰還困難区域や居住制限区域の指定を受け、住民の大多数が避難を強いられています。これらの自治体は、区域という面からみれば、住民不在の状態ですので、“住民なき自治体”であり、他方、住民生活という面からみると、住民の「生活の本拠」は自治体の区域外ですので、“区域なき自治体”(人と人とのつながりだけの自治体)になっています。このような区域と住民の乖離は、住民の権利保障の点でも、避難元自治体の存続という点でも、きわめて憂慮すべき状態にあるといえます。

権利保障のための緊急対応策として、政府は2011年8月に原発避難者特例法を制定・施行しました。その内容は、前記4町を含む13市町村の避難住民が生活上必須の医療・福祉・教育サービスを避難先自治体で受給できるようにすること等ですが、①サービスの項目が不十分、②受給手続きがよく分からない、あるいは煩瑣な場合がある、③特例措置という位置づけが不安定、④避難先自治体での制度理解が不十分、⑤避難先住民の認識が不十分(「負担なしでサービスだけ受給している」等の誤解があるため、避難者であることを隠すような事態も生じている)、⑥避難先自治体独自のサービスが受けられないことも多い(避難先生活での疎外感)などの問題点があります。

一方、放射能汚染は心配だが、いずれ故郷に帰りたいとの希望をもっている避難者も少なくありません。したがって、避難元自治体の存続を図りつつ、避難元の復興・まちづくりへの参加を避難者に保障するための仕組みを整備することもたいへん重要な課題です。

これら2つの課題への対応策として、避難元と避難先の両方の自治体に二重に住民登録を行うというアイデアがあります。しかし、住民登録は1人1カ所にしか認めないという現行制度の考え方が1つの壁になっています。少なくとも、どちらか一方の自治体の住民となりつつ、避難先での十全な権利保障と避難元自治体の将来構想への参加をともに図れるような住民登録制度が必要だといえるでしょう。

 

13 憲法や地方自治法は、住民自治を実現する手段として、どのような制度を定めていますか?

13 住民自治について憲法は、議事機関としての議会の設置、議員と首長の直接公選(93条)、地方自治特別法の住民投票(95条)を定めています。憲法95条は、住民自治における直接民主主義の重要性を示唆しています。また憲法は、「法律の定めるその他の吏員」について、直接公選で任用する余地を認めていますので(93条2項)、先に挙げた3つの制度は、憲法が明示する住民自治実現のための最低限のしくみであると言えます。

そこで、地方自治法は、さらにいくつかの手段を定めています。その1つが直接請求制度です。直接請求は、有権者がその総数の一定割合以上の署名を集めて、表に掲げた6種類のうちいずれかの請求を行うことを認めた制度です。「※」は、人口の多い自治体での利用が容易になるよう要件を緩和するルールです。法定署名数を満たせば直接請求はできますが、請求が実際に認められるかは、請求内容ごとに異なる手続で決められます。条例の制定・改廃請求は、住民がどんなに多くの署名を集めて請求しても議会が否決すれば成立しませんが、議会の解散・議員の解職・首長の解職は、有権者の投票で決められるしくみです。このほかにも地方自治法は、住民が自治体の財務運営を統制する手段として住民監査請求と住民訴訟の制度を置いており、これも住民自治を実現する手段となっています。

表:直接請求制度の全体像

請求内容

要件(法定署名数)

請求の成否を決める手続

条例の制定・改廃

有権者の1/50以上の連署

議会の議決

事務監査

同上

監査委員の監査

議会の解散

有権者の1/3以上の連署※

有権者の投票

議員の解職

同上※

同上

首長の解職

同上※

同上

役員の解職

 

同上※

 

議会の議決(2/3以上の議員が出席し、その3/4以上の同意が必要)

有権者総数が40万を超え80万以下の場合には40万を超える数に1/6を乗じて得た数と40万に1/3を乗じて得た数とを合算して得た数、80万を超える場合には80万を超える数に1/8を乗じて得た数と40万に1/6を乗じて得た数と40万に1/3を乗じて得た数とを合算して得た数

 

14 住民投票とは、どのような制度ですか?

14 住民投票も、住民自治の実現手段の1つです。1990年代以降、各地でさまざまな政策の是非を問う住民投票が行われてきました。しかしこれは、自治体が独自に定めた条例に基づき行う住民投票であり、Q13で述べた憲法、地方自治法上の住民投票(憲法95条の住民投票、直接請求制度の下で行われる住民投票)とは異なります。

日本初の、条例に基づく住民投票の実施例として知られるのが、1996年の新潟県巻町の「巻町における原子力発電所建設についての住民投票に関する条例」に基づく投票で、これ以降、全国的にさまざまな政策を対象とする住民投票が行われてきました。これらは、原子力発電所、駐留米軍基地、産業廃棄物処理場等、住民生活に大きな影響を及ぼすとともに将来にわたって地域のあり方を大きく左右すると考えられるような事柄について、住民の意思を直接に問う制度として役割を果たし、その後、平成の大合併が推進される頃には市町村合併を対象とした住民投票が多数行われ、さらに近年では、老朽化した庁舎の建て替えのあり方や新たな公の施設建設の是非を問う等の広く公共施設に関する住民投票の実施例が複数見られるに至っています。これまでの経過をふりかえると、具体的な政策について住民の意思を把握する手段としての住民投票の有用性は、すでに広く一般的に認められるに至っていると言えるでしょう。

住民投票条例には「個別事項型」と「常設型」の2種類があり、前者はもっぱら特定の政策の是非を問うための条例、後者は特定の政策だけでなく対象を広く「市政運営上の重要事項」とする等将来起こりうる重要な政策全般を対象とする条例です。常設型条例をもつ自治体ではそのような政策問題が生じる度に条例を適用し投票を行う可能性が開かれるので、住民自治を一層充実させうるものと評価できます。ただし、常設型条例において投票資格者の10分の1以上の連署で投票実施請求ができる旨を定めた広島市条例の下で、市長が行った「重要事項」非該当の決定が適法とされた判決(広島高判平成24・5・16)も出されており、「重要事項」の判断のあり方については課題を残しています。

また、条例制定が難しい現実も見過ごせません。2014年1月19日現在で住民投票条例制定の直接請求が全国で610件ある一方、議会での可決率は18%との実態が報じられています(『朝日新聞』2016年4月28日朝刊〔新潟全県版〕)。

 

15 住民投票を実施しても開票されない場合や、投票結果が政策決定に反映されない場合もあるようですが、これはなぜなのですか?

15 住民投票条例の制度設計においてしばしば議論になるのが、「投票の成立要件」の規定の扱いです。成立要件とは、住民投票の投票率が50%未満なら不成立とする、といった規定です。このような規定を置く場合、併せて、不成立のときは開票作業をしない旨の規定も置かれることがあります。実際、成立要件規定をもつ条例の下で行われた住民投票のなかには、不成立ゆえに開票されず投票結果が明らかにされない例が散見されます。最近では、東京都小平市の都道建設計画見直しに関する住民投票(2013年5月、投票率35.17%)、三重県伊賀市の庁舎移転に関する住民投票(2014年8月、投票率42.51%)があります。小平市では、住民から投票済み投票用紙の開示請求がされましたが非公開とされ、非公開決定の行政訴訟で争われましたが、決定は適法との判決が確定しています(最決平成27・9・29)。

住民投票条例には、首長や議会が「投票結果を尊重しなければならない」といった規定を置く例が多数です。しかし、このような規定が置かれていても、投票結果には法的拘束力がないとする見解が支配的です。端的にその理由を述べた判決があります。判決は、「仮に、住民投票の結果に法的拘束力を肯定すると、間接民主制によって市政を執行しようとする現行法の制度原理と整合しない結果を招来することにもなりかねない…から、…市長に…〔投票結果〕に従うべき法的義務があるとまでは解することはできず…、結果を参考とするよう要請しているにすぎない」としています。間接民主制を基本とする統治システムのなかで、住民投票のような直接民主主義的手続を用いて決めることは許されないとの考え方です。しかし、このような考え方も、決して住民投票を否定したり軽視するものではないと見るべきでしょう。間接民主制とは議会を中心とする代表制民主主義であり、そこで重要なのは決定過程における討議や熟慮です。そうすると、投票で得られた民意を踏まえて首長や議会がさらに検討を重ねることは、民主主義を豊かにすると言えますし、だとすれば、投票率がどうであっても結果を公表し、のちの検討資料とすべきではないかと思われます。また、条例に基づく住民投票は、4年に1度の首長・議員の選挙の間隙を埋め、選挙の争点にされなかった政策に関する民意を集約する手段としての意義も、有しています。

 

16 住民参加とは何ですか? 具体的にどのような制度があるのですか?

16 住民投票以外にも、自治体の決定への民意反映の方法にはさらにさまざまなものがあり、これらを「住民参加」と言います。住民参加は、自治体の政策決定過程において住民が意見を述べ、それを反映させていく手続の総称です。従来、行政の決定過程への参加を指す語として用いられてきましたが、最近の議会改革の動きのなかで、議会への参加をも念頭に置いた語としても展開してきました。

これまで普及してきた住民参加のしくみとして、審議会、意見書提出、公聴会、パブリックコメント(意見公募手続とも言う)、ワークショップがあります。このうち前3者は従来から用いられてきましたが、審議会委員の選任方法の不公正や、意見書や公聴会を通して出された意見の取り扱いの不透明といった問題がありました。これに対し、のちに導入されたパブリックコメントは、自治体による政策案の公表→住民からの意見提出→自治体による提出意見の検討結果の公表、という3段階の手順が踏まれる点が特徴的です。また、従来の手続では、案が固まった段階で参加機会が与えられ、その段階で意見を出しても反映の余地がないという問題も指摘されていました。これに対し、ワークショップは、自治体が案をまとめる前の、決定過程の早い段階から住民の討議により問題発見や課題提示を行う手続として、パブリックコメントとともに従来の参加手続の問題点の改善を可能にする優れた特徴をもっています。さらに、審議会については、委員の公募や会議の公開が進むことで次第に改善が図られてきています。しかし、依然として課題もあります。パブリックコメントについて、政策案の修正という結果をもって提出意見が反映されず、提出意見に応答するかたちで実施機関が政策案の考え方を説明しているにすぎないのではないか、また、そもそも1つ1つの参加手続を条例化せず、要綱に基づいて行政裁量をかなり認めたかたちで実施している自治体が多い、といった問題です。前述のように参加手続には多種多様なものがあり、その特徴を生かし、1つの決定過程において複数の異なる手続を実施することを条例で義務付けた上で、実施例を蓄積し、さらなる改善を目指していくことが重要です。

 

17 「住民訴訟」はどんな訴訟ですか?

17 「住民訴訟」は、まさしく「住民が起こす訴訟」ですが、地方自治法に定められ、この名称を与えられた訴訟のことをいい、次のような特徴をもっています。

第1に、住民訴訟は、住民が地方自治体の長や職員等による違法な行為を防止・是正したり、長等の違法な行為によって自治体に加えられた損害の賠償等を命じることを求めたりする訴訟です。訴訟は、自分の法的利益を直接に侵害されたひとが受けた損害の賠償を求めて起こす場合のように、普通、自らの法的な利益を守るために起こす主観訴訟です。これに対して、住民訴訟は、最高裁の判決によれば、「法律によって特別に認められた参政権の一種であり」、その原告である住民は、「専ら原告を含む住民全体の利益のために、いわば公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するもの」であり(最判昭和53・3・30民集32巻2号485頁)、客観訴訟に分類されます。

第2に、住民は「住民」という資格に基づいて住民訴訟を提起することができます。地方自治法は、住民が、監査委員に住民監査を請求してその監査結果、勧告や措置について不服がある場合などにこの訴訟を提起できることを定めています。この住民とは、その自治体の区域内に住所を有する者のことで(地方自治法10条)、国籍、年齢、自然人・法人の別を問わず、1人でも住民監査請求を行うことができます。行政事件訴訟法は、「国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの」を行政事件訴訟のひとつである「民衆訴訟」としており(5条)、住民訴訟は、「住民」という「自己の法律上の利益にかかわらない資格」で提起することを地方自治法によって認められた民衆訴訟に該当します。

以上のように、住民訴訟は、客観訴訟のひとつで、民衆訴訟に分類される訴訟であり、裁判の当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する事件である「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たらないため、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができ」(行政事件訴訟法42条)ます。

 

18 住民訴訟でどこまで自治体の行為の適法性を争えるのでしょうか?

18 住民訴訟は「地方財務行政の適正な運営を確保することを目的」とし、住民監査請求と同様に、地方自治体の長や職員等による公金の支出、財産の管理・処分などの「財務会計行為」のほか税金や手数料を徴収すべき者から徴収しなかったり、財産の管理を怠ったりするなどの「怠る事実」を対象とすることができます。住民監査請求は、不当または違法な財務会計行為と怠る事実について求めることができますが、住民訴訟は、裁判であり、その違法の主張が必要です。すなわち地方自治法や地方財政法の財務に関する規定のほか、憲法上の政教分離原則や平等原則、財産取引に適用される民法や商法等の規定への違反、背任・横領・詐欺などの犯罪行為を主張する必要があります。これまでに違法と認められてきた財務会計行為には、法令の根拠のない退職記念品料の議員への支払い、条例上の根拠のない管理職手当の長への支給などがあります。

住民訴訟は、財務会計行為と怠る事実を直接の対象としてその違法を主張して提起しなければなりませんが、財務会計行為自体ではなくそれに先行してその直接の原因となった財務会計行為に当たらない行為が違法であることを理由に広く地方行政の適法性を争うことが認められています。例えば、憲法の政教分離原則にかかわる有名な事件に津地鎮祭訴訟(最判昭和52・7・13民集31巻4号533頁)があり、直接には、市の体育館起工式に、神職への報償費4000円、供物料3663円を支出した財務会計行為が対象とされましたが、裁判では実質的にその前提となった起工式が神道の方式で挙行されたことの合憲性が争われました。また、収賄罪で逮捕された市の職員を懲戒免職処分ではなく分限免職処分とし、退職金を支出した事件では、原因となった分限免職処分の違法性が認められました(最判昭和60・9・12判時117162頁)。

ただし、その範囲については、例えば、先行する行為が教育委員会によって行われ、財務会計行為を市長が行う場合のように、原因となる先行行為を行った機関が財務会計行為を行った機関とは別系統の独立した行政機関である場合には、先行行為が「著しく合理性を欠き……予算執行適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在し」、長等が財務会計法規上の義務に違反したのでなければ違法とはいえないとされています(最判平成4・1215民集46巻9号2753頁)。

 

19 住民訴訟ではどんな請求を行えるのでしょうか?

19 住民訴訟では、地方自治法242条の2第1項1~4号の4種類の請求を行うことができ、それぞれを「○号請求」または「○号訴訟」と呼びます。各号の請求を順にみてみましょう。

1号請求は、「当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求」です。自治体の機関等による違法な公金支出などを事前に防止、抑制することを目的とする訴です。その「行為を差し止めることによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるとき」を除いて(242条の2第6項)提起することができます。

2号請求は、「行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求」です。補助金交付の決定や行政財産の目的外使用許可などが対象となる処分と考えられますが、処分は、普通、行政目的で行われ、財務処理を直接の目的とする場合は数少ないと考えられます。また、本号の処分の無効確認訴訟には行政事件訴訟法の定める無効確認訴訟とは異なり、地方自治法242条の2第2項の出訴期間が適用されるので、取消訴訟と区別してこれを認めていることにあまり意味はないと考えられます。

3号請求は、「当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求」です。地方税の賦課や手数料の徴収という公権力行使が違法に行われない場合や財産の管理や不法行為による損害賠償請求権を行使しない場合にその違法の確認を求めるものです。

4号請求は、違法な財務会計行為を行い地方自治体に損害を与えた長や職員等に損害賠償・不当利得返還請求または賠償命令することを自治体の執行機関等に対して求める一種の義務付訴訟です(第1段階の訴訟)。2002年の地方自治法改正前には、住民が地方自治体に代位して当該職員等に損害賠償等を請求するかたちでした。請求を認める判決が下されたにもかかわらず判決確定日から60日以内に職員等が賠償請求や賠償命令に応じない場合、自治体が第2段階の損害賠償または不当利得返還請求訴訟(地方自治法242条の3第2項)を提起しなければなりません。4号請求の被告となるのは、「当該普通地方公共団体の執行機関又は職員」ですが、実質的に裁判で争われるのは、訴訟の第三者である「当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」の損害賠償責任や不当利得の理由となる違法な行為または怠る事実です。

 

20 住民訴訟に関連する債権を議会が放棄することは許されるのでしょうか?

20 総務省の資料(第31次地方制度調査会第24回専門小委員会(平成2710月2日)【参考資料4】)によれば、住民訴訟は、2014年3月末までの12年6か月の間に2475件、年平均198件程度が提起されており、その8割超が4号請求です。

1990年代末から、この4号請求を中心とする住民訴訟制度の根幹を揺るがす動きがあります。それは、長等への賠償請求等を求める4号請求が提起されると、議会が訴訟で問題となっている地方自治体の損害賠償請求権等を議決や条例によって放棄し、住民が追及しようとする長等の責任を実質的に免れさせることです。住民が訴訟で行為の適法性を争っている最中に問題の地方自治体の権利が消滅させられてしまえば、訴訟によって財務行政適正化を図ろうとする住民の意欲をくじき、住民訴訟制度の趣旨を損なう可能性があります。しかし、最高裁の判決(最判平成24・4・20民集66巻6号2583頁等)は、債権放棄の適否の実体的判断は議会の裁量権に委ねられているとして、放棄の判断に一応の合理性が認められれば適法としています。4号請求では、長等職員個人に対する賠償の命令が求められ、その金額が極めて高額に上ることがあり問題として指摘されてきていましたが(元市長に対して26億円の賠償支払いを命じた判決等があります。大阪高判平成1526判例自治24739頁)、先の最高裁判決も、債権放棄が過大・過剰な個人賠償責任への議会なりの対応として理解を示したと読めます。

住民訴訟制度が今後も住民参政による地方行財政適正化の有効な仕組みであり続けるには、過酷な個人責任の緩和に対処しながら、住民訴訟を「骨抜き」にする議会の債権放棄に歯止めをかける立法措置が必要でした。2016年の第31次地方制度調査会「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」もそのような方向性を示し、これに基づいて2017年に地方自治法改正が行われました。改正後の地方自治法では、自治体は、条例で、長や職員等の自治体に対する損害賠償責任について、その「職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、普通地方公共団体の長等が賠償の責任を負う額から、普通地方公共団体の長等の職責その他の事情を考慮して政令で定める基準を参酌して、政令で定める額以上で当該条例で定める額を控除して得た額について」免れさせる旨を定めることを可能にしました(243条の2)。しかし、議会が住民監査請求後または訴訟提起後に権利放棄することについては、「あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない」とはしましたが(24210項)、それを制限したり禁止することはしませんでした。

 

21 自治体が処理する事務には自治事務と法定受託事務の区別がありますが、それはどう違うのでしょうか?

21 地方自治法によれば、自治体は、「住民の福祉の増進を図ることを基本とし、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割」を広く担い、これに対して、国は、「国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割」を重点的に担うとされています(1条の2)。もっとも、国と自治体の役割分担の原則は、国が本来果たすべき役割に関する事項については自治体が処理してはならないというところまで求めるものではありません。

そこで、地方自治法は、自治体が処理する事務には「自治事務」と「法定受託事務」といった2つの種類の事務がある(2条8項)とした上で、「国が本来果たすべき役割」に関する事項であっても、法律または法律に基づく政令の定めるところにより、法定受託事務として自治体が処理することとされています(2条9項1号)。法定受託事務の例として、公有水面埋立法に基づく埋立ての免許・承認、旅券法に基づく旅券の交付などがあります。

これに対して、自治事務は、自治体が処理する事務のうち、法定受託事務を除いたものすべてを指します。

自治事務も法定受託事務も「地域における事務」である以上、自治体が自主的に処理することが原則です。しかし、法定受託事務は、国が本来果たすべき役割に関するものであることから、それの適正な処理に高い関心があるので、国等が処理基準を定めたり、自治体の具体的な事務処理について関与したりすることが認められています。自治事務にそのような事情はないのですが、地域も国土であり、住民も国民である以上、自治事務についても、国がその役割に照らして、法令で基準を定めたり、関与したりすることが認められています。しかし、それは、法定受託事務よりも控え目なものであることが求められています(参照、2条13項、245条の3、250条の14第1項)。

 

22 国が自治体に対して行う関与にはどのようなものがありますか?

22 地方自治法は、国の機関が都道府県や市町村の事務処理に対し関与をすることを予定し、関与の基本類型を定めています(245条)。もっとも、国と自治体とは対等並列な関係にあるので、地方自治法は、関与の仕組みは地方自治法または個々の法律で定めなければならない(245条の2)としています(関与法定主義の原則)。

また、地方自治法は、国が関与の仕組みを新たに設けようとする場合には、必要最小限度のものにするように求め(関与必要最小限度の原則)、さらに、自治事務、法定受託事務の区分に応じて用いることができる関与の基本類型を定めています(245条の3)。

これらの原則を当てはめると、次の通りです。

 自治事務の関与の基本類型

  助言・勧告、資料の提出の要求、是正の要求、協議

 法定受託事務の関与の基本類型

  助言・勧告、資料の提出の要求、同意、許可・認可・承認、指示、代執行、協議

※ 技術的な助言・勧告、資料の提出の要求、是正の要求、是正の勧告、是正の指示、代執行については、直接に地方自治法の規定に基づいて行われます(245条の4~245条の8)。

 関与の仕組みを用いる場合にも必要最小限度の原則が適用されます。

 201510月に翁長雄志沖縄県知事が行った辺野古沿岸域埋立承認取消処分に対して、政府は、同月末に代執行の手続をとることを決定し、これを受けて国交相は、11月に翁長知事を被告とする代執行訴訟を起こしました(第1次辺野古訴訟)。これに勝訴すると、国交相は、知事に代わって埋立承認取消処分を取り消すことができます。

 しかし、埋立承認が法定受託事務だからといって、いきなり代執行の手続をとることは乱暴です。地方自治法は「〈代執行〉以外の方法によってその是正を図ることが困難で〈ある〉」ときに、はじめて代執行の手続をとることができると定めているからです(245条の8第1項)。国交相は、代執行ではなく、翁長知事に是正の指示を行い、それに関する争訟手続の中で埋立承認処分が違法であるかどうかをはっきりさせることもできたはずでした。

 そこで、このような国のやり方は国と地方の対等協力関係に反するとして、裁判所は和解を勧告しました。敗訴のリスクを回避するために、国交相は、翌年3月4日に和解を受け入れ、代執行訴訟を取り下げ、第1次辺野古訴訟は終結しました。

 

23 自治体は国の関与を裁判で争うことができるということですが、それはどのような場合にできるのでしょうか?

23 地方自治法は、その担任する事務に関して行われた関与が違法であるとき、自治体が、高等裁判所に対し、その関与を行った国の行政庁を被告として、その関与の取消しを求める訴えを提起することを認めています(251条の5第1項、251条の6第1項)。

もっとも、どのような関与についても取消しの訴えを提起できるわけではありません。関与のうち、「是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの」に限定されています(参照、250条の13第1項)。自治権を侵害する、いわゆる権力的関与と呼ばれるもので、条文に例示された関与以外には、「処分」に当たるものとして「同意」、「認可」、「承認」などの拒否または取消し、「指示」といったもの、さらに、「その他公権力の行使」に当たるものとして「監査」、「立入検査」といったものがあります(代執行も権力的関与ですが、代執行には特有の訴訟があるので〔参照、A22〕、取消しの訴えの対象になりません)。

なお、この他に、自治体が国の行政庁の違法な関与を争う裁判として不作為の違法確認の訴えがあります(251条の5第1項、251条の6第1項)。事務処理に際して、自治体は国の行政庁または都道府県の行政庁の「同意」、「許可」、「認可」、「承認」などを得ることが必要とされる場合があります。これを求める申請等をしたにもかかわらず、国の行政庁が相当の期間内にこれをしない場合に、自治体の方から提起する訴訟です。

ところで、自治体は、違法な関与または違法な不作為についての訴えを提起する前に、特別の手続を経なければなりません。

国の行政庁の関与については、自治体は、まずは、国地方係争処理委員会に対し審査の申出をしなければなりません(250条の13第1項)。第三者機関による審査申出前置の仕組みが採用されている理由は、訴訟手続よりも簡易な手続であることから、係争の迅速な解決を図ることにあるとされています。それだけでなく、委員は、優れた識見(国と地方公共団体の関係についての識見)のある者が任命されることに照らして、裁判所よりも自治体の「自主性及び自立性」に十分に配慮した審査を行うものと期待されているからです。

 

24 辺野古訴訟では、沖縄県知事が不作為違法確認の訴えという訴訟で被告にされていますが、国が自治体を訴えることは許されるのですか?

24 地方自治法は、自治事務の処理について是正の要求または法定受託事務の処理について是正の指示を受けた自治体の行政庁が、相当の期間内に是正の要求に応じた措置または指示された措置を講ぜず、かつ、審査の申出、提訴などもしないとき、是正の要求または是正の指示を行った大臣は、その行政庁を被告として、上記の措置を講じないこと(不作為)が違法であることの確認を求める訴えを提起することを認めています(251条の7第1項)。

関与の取消訴訟を含む関与の仕組みを整えた1999年の地方自治法の改正では、この訴えの仕組みは採用されませんでした。国が自治体を訴えるのは地方自治の尊重の観点からふさわしくないと考えられたからです。

しかし、住民基本台帳ネットワークシステムが導入された際に、一部の自治体がネットワークへの接続を拒否したために、総務相が関係知事に是正の要求をさせたところ、これに自治体が従わないという事象が発生しました。こうした事態に対処するために、2012年の地方自治法の改正によって、この訴えの仕組みが導入されました。

さて、辺野古沿岸域埋立承認取消処分をめぐる翁長知事と国交相との係争は、A22で言及した和解によっていったんは収束しました。ところが、その和解では、国交相があらためて翁長知事に対し埋立承認取消処分を取り消す措置を講ずる旨の是正の指示を行い、これについて翁長知事は、国地方係争処理委員会への審査の申出を経て、その是正の指示の取消訴訟を起こすこととされていました。そこで是正の指示について翁長知事が審査の申出をしたところ、国地方係争処理委員会は、是正の指示が適法であるとも、違法であるとも判断をすることなく、国と沖縄県が協議を進めるのが最善の解決方法だとの結論を審査の結果としました。翁長知事は是正の指示の取消訴訟を起こすのを控え、国に対し協議を求めていたところ、国交相は、是正の指示をしてから1週間以内に埋立承認取消処分を取り消さないことが不作為の違法に当たるとして、2016年7月に、この訴えを起こしました(第2次辺野古訴訟)。

自治体が是正の要求や是正の指示に従わないことにはそれなりの理由がある以上、一連の経緯に照らして自治体の側に看過しがたい過誤がある場合に不作為の違法があると評価すべきです。翁長知事の行動は、そのような評価が当てはまらないと考えるべきでしょう。

 

25 法律とは別に条例が存在する理由は何ですか?

25 国民主権と言っても国民が権力を握り、国民の意思と国の政策とが完全に一致することはありません。国民の意思と国の政策とが完全に一致するのであれば、国の法律とは別に自治体の条例が存在する理由もありませんが、そうではないのです。国の政策が自分の意思から疎遠なものだと感じられるようになった国民は、この状態が国民主権に反すると言いながら、国の権力を弱めるような分権を主張するのです。もちろん、地方自治や分権の主張はいまになってはじまったことではありません。明治時代においても福島事件などの分権を主張する運動が存在していたのです。しかし、明治時代といまとを比べると、地方自治を保障する規定を欠いた明治憲法とは異なり、日本国憲法が、「地方自治の本旨」(92条)とともに、「地方公共団体」は「条例を制定することができる」(94条)と定めています。明治時代においては憲法に地方自治を定めることを要求しなければなりませんでしたが、いまでは、地方自治とともにこれを実現するための自治体の条例制定権は、日本国憲法が保障する自治体の権利です。

日本国憲法が定める条例は、憲法の下位に位置する法形式である地方自治法においては、地方議会が定める条例(14条)と長が定める規則(15条)とに分かれます。以下、この解説で条例という場合には、地方議会が定める条例を指します。

 

26 条例制定権の行使には限界がないのですか?

26 条例が必要とされる社会では国の法律が存在しているので、法律と条例とは矛盾する場合があります。この矛盾を処理するために、国家法である地方自治法は14条1項において、自治体が「第2条第2項の事務」に関して「法令に違反しない限りにおいて」条例を制定することができると定めています。

自治体の事務ではなく国の事務であると解される事務に関する条例は、許されません。港湾施設の使用許可に際して、外国艦船に非核証明書の提出を求める非核港湾管理条例案について、外務省の解釈は、寄港を認めるのか否かは外交関係の処理に当たる国の事務であるというものでした。このように、一般的には、国の事務の範囲が拡大解釈されるとその分だけ自治体の事務の範囲が縮小し、条例制定権の範囲も縮小するので、ある事務が自治体の事務であるのかそれとも国の事務であるのかの判断においては、個別的具体的な検討が行われなければなりません。

条例が法令に違反するのは、どのような場合でしょうか。参考になるのは、徳島市公安条例事件の最高裁判決です(最判1975(昭和50)年9月10日刑集29巻8号489頁)。これによれば、第1に、ある事項について国の法令中にこれを「規律する明文の規定がない場合でも」、当該法令が、規制することなく放置する「趣旨」であると解されるときには、条例は国の法令に違反します。第2に、ある事項について国の法令と条例とが存在する場合には、①国の法令と条例とが「別の目的」に基づく規律を意図するものであり、条例の適用によって国の法令の規定や意図する「目的と効果」をなんら阻害することがないとき、②これとは異なり両者が「同一の目的」に出たものであっても、国の法令がその規定によって「全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨」ではなく、自治体において、「地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨」であると解されるときには、条例は国の法令に違反しません。住民が条例を法令に違反するものと考えて訴訟を提起した場合には、徳島市公安条例事件最高裁判決に示された判断基準が適用されます。裁判というのは、自治体が、司法権を行使する国家機構である裁判所において裁判官を説得しなければならない場ですから、裁判官に地方自治保障に向けて決断させることは、条例の内容にもよりますが、決して容易なことではありません。

 

27 地方分権改革によって、条例にはどのような問題が生じていますか?

27 第1次地方分権改革によって、機関委任事務であった事務についても条例制定が可能となりました。しかし、国の事務が自治体の事務になったとしても、国が個別法において基準を定めることによって、条例制定権は制約されます。そこで、「義務付け・枠付けの見直し」に着手した第2次地方分権改革は、多くの個別法を改正しました。たとえば、第1次一括法によって、「厚生労働大臣」が児童福祉施設の設備および運営の「最低基準」を定めなければならないとしていた旧児童福祉法45条1項は、「都道府県」が児童福祉施設の設備および運営について「条例で基準」を定めなければならない、と改正されました。同条2項において、児童福祉施設に配置する従業者などの事項が「厚生労働省令で定める基準に従い定めるもの」とされ、「その他の事項」については「厚生労働省令で定める基準を参酌するもの」とされました。厚生労働大臣が設定していた「最低基準」は、法改正後においては、都道府県が設定する「基準」へと変わったのです。一般論では、「その他の事項」について「最低基準」を切り下げた「基準」が、省令基準を十分に参酌した都道府県の条例において設定されることも許されます。このような地方分権改革に対しては、これは全般的にはナショナルミニマムの消滅をもたらすものであるという批判が強く主張されています。

地方分権改革の特徴がはっきりすれば、国と自治体とが対立する存在である限り、両者の対立も一層はっきりします。対立物の相互浸透のなかから新たな何かが生まれるという意味では、悲観的になる必要はありません。国と自治体との間に緊張関係がある限り、各自治体が協力しながら「最低基準」に代わる新しい最低「基準」を設定することは可能です。

 

28 最近の条例にはどのようなものがありますか?

28 自治体が条例を制定するという行為は、一般的には条例制定権の範囲を拡大するための実践の1つですが、個別的には住民に対する過剰な規制に当たらないのか否かという主として人権保障の観点からの問題が生じます。この観点から見る場合に注目されてよい条例の1つは、「不良」な住居や生活環境の「解消」や「適正化」、「良好」な生活環境の「保全」を目的内容とする条例です。この条例は、いわゆるごみ屋敷という俗称で社会問題化した住民の行為を放置せず、自治体が地域社会に介入するための根拠を定めたもので、大阪市(2013年)、京都市(2014年)、郡山市(2015年)、豊田市(2016年)、東京都世田谷区(2016年)、神戸市(2016年)、横浜市(2016年)など、既に多数の条例が定められています。条例によって内容は違いますが、たとえば京都市条例では、「建築物等における物の堆積又は放置」、「多数の動物の飼育、これらへの給餌又は給水」、「雑草の繁茂」等の行為によって「建築物等における生活環境又はその周囲の生活環境が衛生上、防災上又は防犯上支障が生じる程度に不良な状態」になった場合に、不良な生活環境を生じさせた者が規制されます。この条例と個別の法律との関係については、たとえば廃棄物処理法が事業者を規制対象とするのに対して条例は事業者以外の者も規制対象ですから、同法が規制することなく放置する趣旨であるのか否か、消防法と条例は目的を共通する部分があるので同法が全国一律規制を施す趣旨であるのか否か、といった解釈問題が生じます。

京都市条例では、市長は不良な生活環境を生じさせた者に対して、指導・勧告、命令そして命令に従わない者の氏名公表を行うことができます。行政代執行法に基づく代執行のみならず、市長自ら軽微な措置を採ることにより不良な生活環境を解消することもできます(即時強制の一種)。しかし、医学の専門家によれば、自治体が代執行や即時強制によって堆積物を撤去したところで堆積行動はひどくなるばかりであると主張されています。一口に「不良な生活環境」と言いますが、ここに至った原因は複雑で、その内容や程度も地域によって多様ですし、当然、「解消」方法も単純ではありません。したがって、不良な生活環境を解消するための取り組みは、自治体が単独の判断で堆積物を撤去すればよいというものではなく、要支援者の意思に従いつつ、市と自治組織その他の関係者とが協力して行う「支援を基本」とすると定められています。複雑で多様な問題に対処するために、公私様々な主体の協働を特徴とする「支援」を定めているからこそ、この種の条例は国の法律とは別に地方の実情に応じた別段の規制を施すものであるという説明が、説得力をもつといえるでしょう。

ここで注意したいのは、地方分権改革が国と自治体との役割分担(権限移譲)を特徴とするものであったように、この種の条例が、自治体と地域における互助の社会関係(階層制でも市場でもない第三の交換様式である互酬を特徴とするネットワーク)との役割分担を重視していることです。地域における素朴な社会関係や自治体職員の努力は、「一億総活躍」のために「我が事・丸ごと」の地域社会を上から作ろうとする国の政策が媒介することで、外交に役割を重点化したい国にとって都合が良い長時間労働へと性質変化することはないのでしょうか。国と自治体、自治体と地域社会との役割分担をはっきりさせるために、適切な緊張関係を形成するための理論と実践が一層求められているように思われます。結局、自治体の住民と職員とが住民自治を擁護し発展させるために、日々の実践とともに国の政策の動向をよく検討することによって、自身の自治能力の向上に努めるべきです。

 

29 自治体間の広域連携とは何ですか?

29 自治体間の広域連携とは、地方自治体が、その区域内又は区域外の住民のために、行政的事務の処理を他の地方自治体と協力して行うことです。このような地方自治体間の協力又は協力関係について、これまで、広域連携という用語が一般的に用いられてきたわけではありませんでした。地方自治法上はこれを端的に「普通地方公共団体相互間の協力」としています。広域行政はもともと「市町村又は都道府県の区域を越えた広域的処理が必要であると考えられる行政的事務」のことですが、これが「複数の地方公共団体がさまざまな事務を協力して行うこと」として用いられることがあります。このほか、広域行政機構や広域行政体制、あるいは地域間連携という用語も用いられてきました。

地方自治体間の協力又は協力関係を指し示す用語として、以上のように、さまざまなものが用いられてきましたが、広域連携という用語が一般的に注目されるようになるのは第29次地方制度調査会答申(2009年6月16日)が公表された前後のことです。同答申は、「平成の大合併」を「合併特例法の期限である平成22年3月末で一区切りとする」と宣言し、わが国が直面している人口減少・少子高齢化の急激な進展に対応するため、「市町村合併による行財政基盤の強化のほか、共同処理方式による周辺市町村間での広域連携や都道府県による補完などの多様な選択肢」を市町村に用意すべきとしました。第30次地方制度調査会答申(2013年6月25日)〔以下「第30次地制調答申」と言います。〕では、上記の「多様な選択肢」のうち、広域連携の積極的な活用が必要と考える市町村が多く存在することから、現行の共同処理方式に加えて、「柔軟な連携を可能とする仕組みを制度化すべき」ことを提言しました。「まち・ひと・しごと創生法」に基づき策定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」でも、広域連携が地方創生にとって重要な課題として位置付けられるに至りました。地方自治体間の協力又は協力関係を指し示す用語として広域連携が選び取られ、現在では、それが定着してきたといってよいでしょう。

 

30 広域連携を行うための手段として地方自治法が定める一部事務組合、広域連合、協議会、機関等の共同設置および事務の委託とはどのようなものですか?

30 一部事務組合は、地方自治体がその事務の一部を他の自治体と共同処理することを目的として設立する自治体の組合で、法人格が認められています(284条1項)。一部事務組合は、2016年7月1日現在、1493団体が設立され、ごみ処理等の環境衛生に関する事務や救急・消防に関する事務等を処理しています。広域連合は、広域的事務に関し広域計画を作成すること、広域的事務について必要な連絡調整を行い、総合的・計画的に広域的事務を処理することを目的として設立される組合で、法人格が認められています(284条1項)。広域連合は、116団体が設立されており、その事務は介護保険に関する事務が最も多く、次いで後期高齢者に関する事務となっています。

一事務部組合又は広域連合の設立にあたり、関係地方自治体は議会の議決を経た協議に基づき規約を定め、総務大臣又は都道府県知事の許可を得る必要があります(284条2・3項)。総務大臣又は都道府県知事には、市町村又は特別区に対する組合設立を要請する勧告権も認められています(285条の2)。この勧告権は、協議会、連携協約および事務の代替執行においても認められていますが、組合設立の許可とともに団体自治の観点から問題視されてきました。

協議会は、関係地方自治体の事務の一部の共同処理、事務処理に関する連絡調整又は広域的事務に関する計画を作成するために設立されます(252条の2の2)。協議会は法人格を持ちません。協議会は202件が設立され、それが取り扱う事務は消防に関する事務が最も多くなっています。機関等の共同設置は、関係地方自治体が、事務を共同処理するために機関および職員を共同設置することです(252条の7)。機関等の共同設置は444件となっており、介護認定に関する事務や公平委員会に関する事務等について機関等が共同設置されています。事務の委託は、地方自治体がその事務の一部の処理権限を他の自治体に移譲して、その事務処理を行わせる手段です(252条の14)。事務の委託の数は広域連携のための手段のなかで最も多く6443件となっています。住民票の写しに関する事務、公平委員会に関する事務等について委託が行われています。

 

31 広域連携の手段として地方自治法が定める連携協約と事務の代替執行とはどのようなものですか?

31 連携協約と事務の代替執行は、第30次地制調答申が導入を提言した「柔軟な連携を可能とする仕組み」として、2014年の地方自治法改正のときに新たに定められました。

連携協約は、地方自治体間で事務を処理するに当たっての基本方針や役割分担を定める契約です(252条の2)。連携協約は2つの地方自治体のみで締結されるもので、市町村間あるいは市町村と都道府県間でも締結することができます。関係地方自治体は、連携協約の締結にあたって、総務大臣又は都道府県知事への届け出の必要があります。一部事務組合等の事務の共同処理方式では共同処理する事務の内容が限定されていますし、関係地方自治体は地方自治法の詳細な規定に沿って規約を定める必要があります。これに対し、連携協約について、地方自治法は協約の記載事項を何ら規定していないので、連携協約に盛り込む内容についても地方自治体の判断の余地は広いですし、自治体間で実際に締結された連携協約の内容を見てみると、自治体間で取り交わされる包括的な政策合意文書のようです。連携協約は契約そのものですので、その締結手続きにおいて組合や協議会といった別組織を設立する必要がありません。連携協約は、事務の共同処理方式と比較して、地方自治体が使いやすい「柔軟な」広域連携の制度といってよいでしょう。連携協約は175件締結され、そのうち128件が後に触れます連携中枢都市構想に関する連携協約となっています。

事務の代替執行は地方自治体が他の自治体の事務の一部を処理することです(252条の16の2)。事務の委託の場合は、事務の処理権限が委託した地方自治体から受託した自治体に移ります。これに対して、事務の代替執行の場合は、委託した地方自治体に事務の処理権限が残ります。また、事務の委託では、市町村のみに属する事務を都道府県に委託することはその処理体制が存在しないことから望ましくないと考えられてきましたが、事務の代替執行は、実務上は都道府県と市町村間でも可能であると説明されています。事務の代替執行は2件で、上水道に関する事務と公害に関する事務が1件ずつとなっています。

 

32 広域連携を推進するためにどのような施策が進められていますか?

32 国は、広域連携推進のための施策として定住自立圏構想と連携中枢都市構想を立ち上げました。国は、これらの構想に基づく広域連携の内容を具体化した要綱を策定しています(「連携中枢都市構想推進要綱」と「定住自立圏構想推進要綱」)。

連携中枢都市圏とは、三大都市圏以外の地方圏で人口20万以上の中核性を備えた市である連携中枢都市と近隣の市町村とで形成される都市圏です。連携中枢都市圏の形成にあたり、連携中枢都市と近隣市町村は連携協約の締結を強制されています。連携中枢都市と市町村は圏域全体の経済のけん引、高度医療サービスな公共交通網の整備等の高次の都市機能の集積・強化、地域医療、介護や福祉等の生活関連機能サービスの向上といった行政的課題に連携して取り組むことで、連携中枢都市圏を「活力ある社会経済を維持するための拠点」とし、地方圏における人口減少に歯止めをかける効果が期待されています。2017年3月31日現在、23の連携中枢都市圏が形成されています。定住自立圏は、人口5万人以上で一定の都市機能の集積がある中心市と近隣市町村が定住自立圏形成協定を締結して形成される圏域です。一定の都市機能の集積している中心市と農林水産業、環境、歴史・文化等の資源を有する近隣市町村が、それぞれの役割に応じて連携して圏域全体の生活機能の確保と圏域の活性化に取り組むことで、圏域への定住を促進するという効果をもたらすことが期待されています。2017年4月1日現在、118の定住自立圏が形成されています。

国は、2020年までに、連携中枢都市圏の圏域数を30圏域、定住自立圏のそれを130圏域とするという数値目標を掲げていますが、これらの圏域を形成し連携を行っていくかどうかは、住民の意見を十全に反映した上で、地方自治体の自主的な判断に委ねられなければなりません。しかし、連携中枢都市構想や定住自立圏構想に基づく広域連携に対する民主的コントロールとしては、連携協約の締結等に係る議会の議決が存在するにすぎません。また、総務大臣又は都道府県知事による連携協約の締結を要請する勧告権を通じて、地方自治体がこの構想に組み込まれてしまう可能性も指摘されています。

 

Q33 地方分権改革は、いつから、どのような内容で進められていますか?

A33地方分権改革は、憲法の定める地方自治(住民自治と団体自治)を実現することを目的として、住民に身近な政治行政を、地方公共団体が自主的に担うようにするとともに、地域住民が地域の諸課題に取り組み、また、地域の政治行政に参加・協働するための改革でなければなりません。

 ところで、わが国において地方分権改革は、政財界からの地方分権に向けての潮流に、第三次行革審最終答申(199310)がこれに呼応し、行政改革の柱となることが宣言され、19955月、地方分権推進法が国会で可決されます。同法に基づいて設置された地方分権推進委員会は5次にわたる勧告を行い、19997月には、地方自治法の大改正を含む「地方分権一括法」が成立します。

 この改革により、国と自治体の関係を、上下・主従の関係から対等・協力関係に改められ、機関委任事務制度が廃止され、自治体の事務は、自治事務と法定受託事務とに分けられ、そのいずれもが自治体の事務として条例制定の対象となりました。また、国の関与に係る基本ルールとして、自治体の自主性・自立性の尊重の原則、国の関与の法定主義や抑制(比例)原則などが地方自治法に規定され、さらに、国の関与をめぐる紛争処理を、まず、行政内部の公正・中立な第三者機関である国地方係争処理委員会に委ね、その判断結果に不服がある場合には、裁判所の判断により解決を図るという二段階から構成される争訟処理の仕組みを採用しました。

 この分権改革は、21世紀に入って、分権改革の受け皿づくりという名目で、「平成の大合併」が行われ、地方財源の大幅削減等を内容とする「三位一体改革」を経て、20075月に地方分権改革推進委員会が発足します。同委員会は、「義務付け・枠付けの見直し」、権限移譲を中心に勧告を行い、これを受けて、地域の自主性及び自立性を高めるための改革推進立法が成立します。このようにして今日まで続けられてきた一連の地方分権改革のうち、地方分権一括法(1999)までの前段の改革を第一次地方分権改革、それ以降の地方分権改革を第二次地方分権改革ということもあります。

 

Q34 地方分権改革は、なぜ、必要とされたのですか?

A34 この問いは、どのような立場なのかによって、その答えが異なってきます。地方分権改革は、3つの立場のグループの「混声合唱」によって進展したといわれています。

1の立場は、グローバル経済の下で国の統治機構をスリムにする必要性から地方分権改革を唱えるというものです。これは、地方分権改革が国・地方を通した国家のスリム化に貢献するという、国の構造改革の一環としての行政改革重視というものです。第2の立場は、国と地方を切り離し、地方の発展も消滅も地方の自己責任に委ねるべきであるという立場で、いわゆる規制緩和政策や公企業民営化政策のなかで、地方の行政資源を市場・競争(選択と集中)原理から見直すという立場です。第3の立場は、憲法の地方自治(住民自治と団体自治)を実現することを目的としたもので、分権を進めることはわが国のこれまでの統治構造のあり方(国と地方の上下関係)を変え、民主主義の理念にも適うという立場です。これらの三者の立場は、分権を進めてほしいという点では共通していましたが、最終的に、誰の、何のための改革なのか、という点で違いがみられます。第1と第2の立場は、基本的に同じ路線で、それぞれの旋律やハーモニーを調和的に奏でたのに対し、第3の立場は憲法や民主主義を重視したことから、第一次地方分権改革は、旋律やテンポまでもがまちまちで、全体として不協和音に満ちた混声合唱と揶揄されたのです。例えば、第3の立場からすると、確かに、99年の地方分権一括法により国と地方の関係を上下・主従から対等・協力へと自治体の自主性を拡大したともいえます。しかし、地方分権改革が中央政府機構改革と結び付けられ、その両方が99 年に行政システム改革立法として成立し、その内容が福祉・医療・教育分野の縮小と外交・防衛・経済の分野の拡大を図るものであったことから、地方分権「改革」は、福祉国家の消滅と、安保体制に対応できる国家づくりでもあったのです。

 このような「混声合唱」は、一連の地方分権改革にみられる特徴でもあり、とくに、第2次分権改革が、数多くの具体的な改革を自治体における自主決定の仕組みの手法を取り入れて進めているだけに、具体的に提案された改革内容を、誰の(どのような立場の)、何のための改革なのか、個別・具体的に批判的にみるという視点が、いまなお重要です。

 

Q35 安倍政権下の地方分権改革の特徴は何ですか?

A35 第2次安倍政権は、2012年暮れの総選挙で圧勝し成立します。同政権は、2013年早々、地方分権改革を推進するための大幅な組織改革を行い、「地方分権改革有識者会議」を中心に、地方分権改革を進めています。その特徴を3点ほど指摘します。

 第1の特徴は、従来の分権改革が法改正等により上から一般的画一的制度改革を進めてきたのに対し、第2次安倍政権の分権改革は、これまでの手法と併行して、地方公共団体からの提案等を踏まえ、関係府省等の協議を経て法改正を進めるという「提案募集方式」や、希望する自治体に権限移譲する「手挙げ方式」といった新たな手法を導入した点です。これは、下からの規制緩和とみることもできます。

 第2の特徴は、アベノミクスの3本目の矢である成長戦略の下に地方分権改革を位置づけた点です。成長戦略を実施するために、国家戦略特区法を制定し、国家戦略特区内において上からの規制緩和(いわゆる岩盤規制の攻略)をすることで、世界でいちばんビジネスのしやすい環境を整備し、そこに地方自治体を動員しようとしています。構造改革特区は、特別区域の作成や認定申請において自治体の主体性が確保されていないことから、上からの規制緩和といえるでしょう。

 第2次安倍政権の下での地方分権改革が成長戦略の下に位置づけられることで、提案募集方式や手挙げ方式といった下からの規制緩和と「国家戦略特区」のような上からの規制緩和を使い分けながら、第2次安倍政権は成長戦略を進めているのです。

 第3の特徴は、辺野古新基地建設をめぐる安倍政権の対応にみられるように、軍事行政という観点から地方自治を侵害したり、教育行政領域における国家関与を強めたりするなど、第1次地方分権改革の成果である自治体の自主性・自立性を目指す方向とは逆の、権力集中の方向に進んでいる点です。

 地方分権改革の評価は、行政領域毎に住民の人権保障や自治体の自主性・自立性の確保という観点から個別具体的な検討を行い、各領域を総合的に検討することが必要となります。Q34の解説で、地方分権改革は、3つの立場の「混声合唱」によって進展していると述べましたが、第2次安倍政権は、そのなかの第2の立場を主旋律とし、第1の立場とも協力しながら、第3の立場を形骸化する方向で、地方分権改革を押し進めているといえるでしょう。