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2013.09.20

紹介」白藤博行『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社、2013年)

南山大学教授・榊原秀訓

新しい時代の地方自治像の探究

「紹介」白藤博行『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社、2013年)
 著者の白藤教授は、地方自治法のスペシャリストである。いままでに、地方自治にかかわるくだけた文章から、学術的な論文まで、多数のものを公表しており、本書は、それらを基礎に執筆されたものである。政権交代により、地方自治にかかわる改革はその名称を変えてきている。自公政権時代の「地方分権改革」から、民主党政権時代の「地域主権改革」に変わり、さらに自公政権に戻り、再度「地方分権改革」に名称が変わっている。その時々に、重要政策があり、政権により力点の相違もあるが、「地方分権改革」であれ、「地域主権改革」であれ、連続している政策も少なくない。この間の一連の改革における最重要キーワードは、「補完性の原理」である。世界を見渡しても、地方自治にかかわる改革において、「補完性の原理」が核になることが一般的である。
 しかしながら、わが国における「補完性の原理」は、国際基準に照らしてみると、大きな偏差をともなっている。「国と地方の役割分担」論や「総合行政主体」論がその典型である。一見したところでは、国際的潮流の中にあるが、実際には、かなり独自な展開をしている改革の進め方は、地方自治に限らず、行政改革にも共通している。「国と地方の役割分担」論において、一方で、自治体が国の防衛・外交に口出しすることを禁止し、他方で、教育・医療・福祉等は自治体が責任をもつものとして国が撤退することが当然のような議論が展開される。さらに、「総合行政主体」論によって、大きいことは良いことだとして、市町村合併や都道府県から市町村への権限移譲が推進される。
 一般論として、地方分権改革といった名称からは、地方自治が前進しているように見えるし、確かに一歩前進している面もあるが、述べてきたように、わが国特有の偏差もあり、二歩あるいはそれ以上に後退しているのが現実であろう。京都大学岡田知弘教授は、小泉政権から第1次安倍政権に「構造改革」政策が引き継がれる中で、既に、憲法と地方自治が、「戦後最大の危機」を迎えつつあると考えるようになったと述べていた(岡田知弘『道州制で日本の未来はひらけるのか』(自治体研究社、2008年)66頁)。その路線をより強力に推進しようとしている現状は、さらに深刻さを深めていると言えそうである。造語が好きな白藤教授によれば、「改憲」ではなく、「潰憲」型地方分権改革と表現される事態に至っていると言える。しかし、憲法研究者を含め、9条平和主義については、「解釈改憲」から「明文改憲」については危機感を強く抱く者も、地方自治に関する同様の動きには必ずしも関心は高くない。
 本書において、白藤教授は、いかなる意図の下に、わが国特有の理論や政策が展開されているかを丁寧に分析し、比較法的知識も活用しつつ、単に批判にとどまらず、あるべき地方自治の姿を浮かび上がらせている。こういった作業が、「補完性の原理」をはじめとして、随所で展開されている。市民だけではなく、研究者にとっても、本書は、地方自治の現状や問題点を知るだけではなく、今後のあるべき姿を考えるための格好の一冊である。(南山大学教授・榊原秀訓)