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2013.10.01

湖南市地域自然エネルギー基本条例制定の背景と全国への広がり-滋賀県湖南市の谷畑英吾市長の報告

 2013年9月21日、22日、京都・龍谷大学で「市民・地域共同発電所全国フォーラム2013」が開催されました。1日目は和田武実行委員長(元立命館大学教授・自然エネルギー市民の会代表)の基調報告と2つのパネルディスカッション、2日目は4つの分科会にわかれて討論が行われました。参加者は1日目270人、2日目は250人でした。
1日目のディスカッションの中で、2012年9月、日本で初めて地域自然エネルギー基本条例を制定した滋賀県湖南市の谷畑英吾市長が条例制定の背景、内容、政策の伝播について報告されました。その発言の中から条例制定の背景を中心に紹介します。

湖南市地域自然エネルギー基本条例制定の背景と全国への広がり
滋賀県湖南市の谷畑英吾市長の報告
 
 2013年9月21日、22日、京都・龍谷大学で「市民・地域共同発電所全国フォーラム2013」が開催されました。1日目は和田武実行委員長(元立命館大学教授・自然エネルギー市民の会代表)の基調報告と2つのパネルディスカッション、2日目は4つの分科会にわかれて討論が行われました。参加者は1日目270人、2日目は250人でした。
 1日目のディスカッションの中で、2012年9月、日本で初めて地域自然エネルギー基本条例を制定した滋賀県湖南市の谷畑英吾市長が条例制定の背景、内容、政策の伝播について報告されました。その発言の中から条例制定の背景を中心に紹介します。(なお、湖南市地域自然エネルギー基本条例については、「季刊?自治と分権」第51号(2013年4月)でも紹介していますので、ご覧下さい)

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1. 条例制定の背景
(1)東日本大震災で「自治体とは何か」が突きつけられた
 条例制定の背景としては、戦後パラダイムが終わったという時代認識がある。人口減少社会、高齢社会、成熟社会になった。社会保障経費が大きくなり、国債への依存体質もある。日本全体のシステムを変えていかねばならないのではないかということが背景にある。さらに、プラスインパクトとしての阪神大震災がある。ここではNPOの役割に注目した。行政の限界があったと思う。セカンドインパクトとして東日本大震災がある。ここでは、防災の限界、原子力エネルギーの危険認知、自治とは何か、様々な課題が突き付けられたと思っている。
 湖南市は福島第2原発のある福島県富岡町を支援している。2012年、滋賀県市長会として福島第2原発を視察、今年も富岡町に行ってきた。富岡町には現在も住民がいない。地方公共団体は、事務所の位置、区域、住民がいること、さまざまな税負担があることが定められている。しかし、富岡町の現状は、事務所が富岡町になく、郡山市を中心に4箇所に分散している。帰宅困難区域ということで、区域の中に住民が住んでいない地域がいまだにあり、税金が入ってこない。自治体とは何かが厳しく突きつけられたと思っている。国全体のエネルギー政策や地方政策が破綻しており、それを自治体がどう実務的にカバーしていくかが大事だろうと思う。

(2)地域の課題
 湖南市には、いしべに市民共同発電所をつくる会があり、1997年から市民共同発電所「てんとうむし1号、2号」を設置してきた。また、障害者自立支援法のモデルになった発達支援システムの構築という先進的な障がい者福祉政策がある。こうしたとりくみを中心に新しい時代の自治体づくりをしなければならないという流れがあった。こうした優れたとりくみに地域の担い手自身が気づき、活かしていくための仕組みづくりが大事。地域の中でさまざまなものを循環させながら、地域ができる限り自立して、自立分散型の国土をつくっていくべきではないかと考えている。
コナン市民共同発電所(自然エネルギー)、アールブリュット福祉ツーリズム(障がい者福祉)、コミュニティルネッサンス(地域の特産品開発?観光)の3つを全体として回していき、地域の自立ができないかと考え進めている。それを支えているのが「こにゃん支え合いプロジェクト推進協議会」で、市内の様々な主体が参画した団体である。湖南市と「こにゃん支え合いプロジェクト推進協議会」が包括的連携協定をむすび、3つのプロジェクトをつないでいる。地域に降り注いだ雨や太陽や風などの自然エネルギーを「地域独自の資源」と位置づけて、そこから生まれる富を地域の中で回していこう。市民共同発電所でできた富を地域の商品券にして地域内循環をさせていこう。障がい者福祉の面でも、地域特産品の開発の面でも、ここにリンクをさせていく。

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(3)理念条例として制定
 2012年6月3日、「自然エネルギーは地域のもの」というパネルディスカッション&講演会を和田武先生にもおいでいただき湖南市で開催した。さらに学習啓発ということで、毎月のように連続講座をしながら、市民の中に知識啓発をしてきた。2012年7月1日から固定価格買取制度が導入されるということで、その前に、自然エネルギーを地域固有の資源と位置づけながら、これを地域の外に持ち出されないようにするためにはどうしたらいいのか、条例によって法的に規制をかけていくべきではないかという学習をすすめてきた。こうした講演会などのとりくみと並行して、2012年6月から7月にかけて、湖南市地域自然エネルギー基本条例案を策定し、パブリックコメントにこぎ着けた。その中心は、条例の基本理念に「自然エネルギーは地域のもの」を据えることだった。7月に買取制度が始まるので早くしなければならないと、規制を少し外し、理念条例とした。市、事業者、市民の役割を明らかにしながら地域が主体となったとりくみをしていく、そして地域の持続的発展に資するという形にした。
条例制定と同時に、公共施設の屋根や法面などを活用するための条例の一部改正を行った。

(4)一般社団法人が中心となり発電
 一般社団法人コナン市民共同発電所プロジェクトが立ち上がり、現在このプロジェクトが中心となって市民共同発電をすすめている。内容としては、出資者が信託会社に出資し、信託会社からの融資で一般社団法人コナン市民共同発電所プロジェクトが発電所をつくり運用する。さらには、商工会や観光協会と連携して地域商品券を発行する。電力会社に売電し、その売電益を地域商品券で出資者に還元する。このように地域の経済活動に資するというやり方をしている。こうした中で、初号機が2013年2月、売電を開始している。福祉事業所の屋根の上に、20kWを設置し、総事業費800万円、1口10万円で80口を募集した。これを地域商品券で返すわけだが、現在売電収益は計画を上回っている。

(5)予想外のメガソーラー建設
ところが、ひとつ問題が発覚した。市内に太陽光発電所はないと思っていたが、パブリックコメントの最中に、1.8メガのメガソーラーの計画が持ち上がった。そこの会社に条例の趣旨を説明し、市民共同発電所とのコラボレーションをお願いしたが、断られた。結局、メガソーラーが一つポンとできてしまったという忸怩たる思いがある。2012年9月議会で条例が通ったが、そのタイムラグで1.8メガのメガソーラーができてしまったという残念なことがあった。

(6)2号機は民間企業と市民共同発電所がコラボ
 その後、甲西陸運株式会社という運送会社が1.0メガのメガソーラーをつくったが、そのときに条例の趣旨を説明したら、一緒に共同発電所をつくろうということになった。9月26日に開業する2号機は、日本ではじめて民間企業と市民共同発電所がコラボする形になった。

2.政策の伝播
2012年9月に湖南市が条例を制定した後、2012年12月に愛知県新城市、2013年3月に長野県飯田市、高知県土佐清水市、2013年6月に兵庫県洲本市など、各市が条例を制定している。当初のもくろみどおりに少しずつ広がっているかなと思っている。

湖南市地域自然エネルギー基本条例
http://www.city.konan.shiga.jp/_upfiles/news/f15303/120921energy.pdf