研究機構とは

設立に当たって

21世紀を目前にした今日、地方自治・自治体は歴史的岐路に立っています。

1980年代から開始された「臨調行革・地方行革」路線の下で、政府は国庫支出金削減など財政負担を自治体へ転嫁し、自治体も住民本位の施策を切り捨てつつ企業主義的運営を強めました。一方、85年の「プラザ合意」で、日本政府は「内需拡大」を公約し、民活型の大型公共事業の推進に転換をしました。さらに、アメリカの圧力で進められてきた金融自由化は国際的な金融資本の東京集中をもたらしました。そして、両者が一体となって「バブル経済」を引起したのです。バブルが崩壊すると都市再開発・臨海開発やリゾート開発などの大型プロジェクトは自治体の財政を圧迫し、不況による税収低落の下で、借金によって事業を継続した自治体は、軒並み深刻な財政危機に陥りました。

90年代の『第2次地方行革・自治体リストラ』攻撃は、このような背景をもっていましたが、第一に、地方自治・自治体の反動的再編、第二に、自治体の企業主義的経営の強化・住民本位の行政施策の切り捨て、第三に、地方自治をまもる自治体職員や労働組合への攻撃という三つの本質的な狙いをもっていました。

『地方分権一括法』は、自治体の積年の要望であった機関委任事務制度を廃止しましたが、同時に、国の自治体への関与をむしろ強化する条項が盛り込まれました。即ち、全体として、国の自治体への統制を強化、自治体行政の民営化及び市場化、市場による自治体の「選別」強化が志向されていると言わざると得ません。また、新ガイドライン法(戦争法)は、日米安保体制を実質的に改悪するもので、アメリカが企てる戦争に日本国民を巻き込む危険性を拡大しましたが、『地方分権一括法』と一体となって自治体が戦争協力を強制される可能性も大きくなっています。住民が地域において平和的に生きる権利は、自治労連を含めた20団体で策定した『地方自治憲章案』の基本的な精神でありますが、この「平和的生存権」を全面的に否定し、地方自治を形骸化させるものです。

このような今日の政治の動向は、日本資本主義の対米従属下でのグローバル化・多国籍資本化を背景とした「新自由主義的」政策の台頭を背景にしています。政府の重点機能を外交・防衛などに特化し、内閣の危機管理機能を強めたスリムで強権的な国家に再編すること、同時に、住民の負担を強め政府や企業にとって安上がりな自治体づくりが狙われているのです。

しかし、もう一方では、様々な分野で地方自治を前進させる運動が大きな歴史的な流れを創り出しつつあります。米軍基地の撤去や基地被害の救済を求める沖縄をはじめとする全国の自治体における運動、情報公開制度を活用した「市民オンブズマン」や住民の自治体行政への監視・参加の発展、産業廃棄物処理施設・原発・自然破壊の大型公共事業の是非をめぐる住民投票や住民の手による「まちづくり」をめざす運動、地方自治の経済的基盤をつくる新しい地域振興のための運動などが各地で発展しつつあります。これらは、「住民こそが主人公」という地方自治の本旨の実現をめざす新しい歴史の胎動であり、全国的に拡大している革新・民主の自治体建設とも密接に結びついています。

自治労連は、結成以来この10年間、労働組合の本来の任務である労働者の生活と権利を守り発展させる運動とともに、住民生活を擁護し地方自治・自治体の民主的発展をめざす運動を中心課題としてきました。

現在、労働運動の分野でも「新たな転機」が生まれようとしています。このことは、全労連や自治労連の全労働者・全労働組合を対象とした『総対話と共同』の取組みの前進に明瞭に示されています。「要求の一致に基づく行動の統一」という当然の原則が生かされる条件が拡大し、要求を実現する政策の確立とともに国民的な多数派を形成できる基盤が確立しつつあります。

自治労連は、その10周年にあたり第21回定期大会において地方自治問題研究機構の「運営要綱」及び「設置規程」を確認し、歴史的一歩を踏み出しました。この地方自治問題研究機構は次のような性格をもつものです。

第一に、地方自治及び自治体における運動の前進に寄与する調査研究活動等を行うために、自治労連の運動及び政策活動と組織的に密接に結びついた機能をもちます。

第二に、地方自治の民主的発展及び自治体労働運動の前進を願う研究者の皆様の幅広い協力と参加のもとに運営し、自主的な研究活動を推進します。

第三に、その活動と成果は、自治体労働運動や住民の運動の発展に活かされ、日本国憲法の平和的・民主的諸原則を擁護発展させる国民的運動や理論・政策活動の一翼をなすものです。

自治労連は、組合員はもとより多くの労働組合・民主団体をはじめ、幅広い研究者の皆さんのご支援ご協力よってその発展を支えられ、地域住民の皆さんとともに歩みを進めてきました。心から感謝の意を表明するとともに、ここに地方自治問題研究機構の本格的な出発を明らかにするものです。

1999年8月7日
日本自治体労働組合総連合