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![]() 【No.65/2006.04.17】 自民党新憲法草案でどうなる、地方自治 晴山一穂
(専修大学)
本稿は、3月17日に開催された「第6回東京自治研集会・テーマ4 “いま東京から平和を考える”」(自治研集会実行委員会主催)において行った講演に加筆していただいたものです。インフォメーション・サービス62号の進藤兵「『分権型国家』が住民生活と地方自治を破壊する」や、この晴山論文においても、改憲論における地方自治条項への批判があまり見あたらないと述べています。この背景には、改憲の焦点が憲法9条にあり(自民党の新憲法草案では、9条と96条にかなり絞ったものになっている)、批判をこの部分に集中すべきだという議論もあるかも知れません。しかし、お二人の論文をお読みいただければ、こういった認識が当を得ているとも思われません。本稿は、大変にわかりやすく整理されており、学習に最適です。是非、ご活用ください(編集部)。 はじめに
自民党の新憲法草案が昨年秋に公表されて以降、さまざまな議論が展開されていることは、みなさんご承知のとおりです。この憲法草案の最大のポイントが9条の改定にあることはいうまでもありませんが、それと同時に、草案には、基本的人権や統治機構を含めて、現在の日本国憲法のあり方を大きく変えていこうとするねらいが込められていることもまた、すでにさまざま指摘されているところです。 本日は、地方自治に焦点を当てて、自民党新憲法草案でいったい日本の地方自治はどうなるのかということを学習することがテーマとなっています。私は地方自治の問題を系統的にフォローしているわけではありませんので、報告を依頼され慌てて調べてみたのですが、私の見た限りでは、この問題についてきちんと論じているものはほとんど見つかりませんでした。あまり時間がなかったのであるいは見落としている可能性もあるのですが、この間、地方分権改革や市町村合併、さらに三位一体改革や最近の道州制の動きなど、地方自治をめぐる動きが日本の政治ないし統治機能と関わる大きな問題としてクローズアップされてきているなかで、改憲論との関わりで地方自治の問題を正面から論じたものが見当たらないということは、やや意外な感じを受けました。 そういうことで、以下では、最初に、自民党新憲法草案のなかの地方自治に関する規定がどのような内容になっているのかということの確認からはじめたいと思います。そして、その後で、そこで描かれている地方自治の姿、地方自治像とはいったいどのようなものなのか、そこのはどのような問題があるのか、もしこの草案が通ったとしたら日本の将来の地方自治というのはいったいどういうことになるのか、ということについて、私の考えているところをのべてみたいと思います。 T 条文だけでは分かりにくい地方自治の規定
1 自民党案の内容――現行規定との比較
地方自治に関する新憲法草案の規定を現行規定と対比した資料を付けてありますので、これを見ながら草案の規定が現行規定とどこが同じでどこが違うのかを最初に確認しておきましょう(後掲資料参照)。草案の規定は、以下のように、(1)現行規定とほぼ同じ内容の規定、(2)新たに設けられる規定、(3)現行規定を廃止する規定、の3つにグルーピングすることができます。
(1)現行規定とほぼ同じ内容の規定
@91条の3第2項(現行92条):「地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。」
A93条(現行93条):「地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。」 B94条(現行94条):「地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」 (2)新たに設けられる規定
@91条の2:「地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う。」 A91条の3第1項:「地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括し、補完する広域地方自治体とする。」 B92条:「国及び地方自治体は、地方自治の本旨に基づき、適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない。」 C94条の2:「地方自治体の経費は、その分担する役割及び責任に応じ、条例の定めるところにより課する地方税のほか、当該地方自治体が自主的に使途を定めることができる財産をもってその財源に充てることを基本とする。 2 国は、地方自治の本旨及び前項の趣旨に基づき、地方自治体の行うべき役務の提供が確保されるよう、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講ずる。3 第83条第2項の規定は、地方自治について準用する。」 (3)現行規定で廃止されるもの―現行95条の地方自治特別法に関する規定
<参考>
現行95条:一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
2 条文だけでは分からない地方自治条項?
(1)規定の豊富化
以上の規定を一読してみて最初に分かることは、草案の地方自治に関する規定がかなり増えているということです。現行憲法の地方自治に関する規定は全部で4ケ条しかありませんが、草案では6ケ条に増え、しかも、その内容もかなり豊富になっているということです。現行憲法に対しては、地方自治の保障の観点からみて規定が簡潔すぎるのではないかということがしばしば問題点として指摘され、改憲論のひとつの論点になってきましたが、この点からすると、草案の規定は量的にはかなり充実したものといえそうです。
(2)規定内容の充実?
つぎに、規定内容ですが、これも、一見すると、地方自治の充実に配慮した規定が多く盛り込まれているようにみえます。もっとも、91条の2の「負担を公正に分任する義務」の新設や現行95条の廃止は地方自治保障の観点からみて問題があるな、ということはすぐ分かるのですが、そのほかの規定はあまり問題がないような印象を多くの人は受けるのではないでしょうか。「住民の参画」、「住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施」、「役務の提供をひとしく受ける権利」といった現行憲法にはない規定をみていると、むしろ現行規定よりも地方自治に厚い規定ではないのか、などと思われるかもしれません。また、草案では現行憲法の「地方公共団体」に代えて、すべて「地方自治体」の語で統一しており、この点でもより地方自治にふさわしい印象を与えるでしょう。なぜなら、「地方公共団体」という用語は戦前以来の古い法律用語であって、地方自治の保障にはふさわしくないという批判が行政学者などから指摘されてきたからです。
このように、規定の表面だけ見ると、草案は現行規定よりも地方自治を保障しているではないか、負担の公正な分任や現行95条の廃止といった規定さえ改めれば問題ないのではないか、ということになりそうです。憲法9条の改正が誰が見ても問題がはっきりと分かるのに対して、地方自治については、規定をみている限りではその問題点がすぐにはつかみにくいということは事実だろうと思います。 (3)改憲構想全体の中で捉える必要
しかし、草案の地方自治の問題を考えるに当たっても、草案の地方自治条項だけを切り離して考察することは正しくないでしょう。詳しい話はできませんが、この間の日本のあり方を規定してきたのは、軍事大国化の動きと新自由主義改革という自民党政権が続けてきた2つの路線であり、この2つの路線が今度の草案においても最も重要な柱になっています。前者が9条の改正であることはいうまでもありませんが、後者も草案の重要な要素になっていると考えられます。たしかに、新自由主義改革の障害となる憲法25条の生存権の規定にはほとんど手が加えられていませんが、財政の章で、「財政の健全性の確保」につねに留意しなければならない旨の規定が新設され(83条2項)、この規定を楯にとって生存権保障のための措置が大きく削られていく可能性があります。また、草案の前文では「自由かつ公正で活力ある社会の発展」が謳われていますが、この表現は、最近の新自由主義的構造改革のいわばキーワードに当たるもので、行政改革会議最終報告においては、市場原理・自由競争のもとで個人の自立自助・自己責任が最大限発揮されるような社会を指すものとしてこの言葉が使われています。
そうすると、草案の地方自治に関する規定も、このような国家像・社会像を前提とした地方自治にほかならず、一見自治権を拡充するかのごとき美しい言葉で飾られた諸規定も、このような国家像・社会像に適合的な限りで意味をもつものであるということを、まずなによりも最初に押さえておかなければなりません。 (4)草案の規定の実質的意味を考える必要
つぎに、草案の条項を読む場合に重要なことは、単に条文の表面的な文言にとらわれるのではなく、改憲を通して自民党が日本の地方自治のあり方をいったいどのような方向に導こうとしているのか、そして、それとの関連で草案の条項がいったいどのような実質的意味をもっているのか、ということを考えてみる必要があるということです。このような観点にたってみると、草案の地方自治条項は、単にいまのべた改憲構想全体との関わりという問題だけではなく、草案の具体的な規定そのものにさまざまな問題がはらまれているのではないかと思われます。
日本の地方自治のあり方は、90年代初頭を転機に大きな変容を遂げてきました。90年代を通して鳴り物入りで進められた地方分権改革、そのひとつの帰結としてここ数年間強行されてきた市町村合併、そしてその延長線上で浮上してきた道州制導入の動き、さらには地方団体を巻き込んで現在進められつつある三位一体改革。わずか十数年の間に、驚くべき勢いで地方自治にかかわる諸「改革」が連続的に進められてきました。草案の地方自治条項は、このような地方自治をめぐる動きと無縁でないどころか、まさにこのような地方自治改造の動きのひとつの集約点として位置づけられるものにほかなりません。そこで、以下、90年代以降の地方自治改造の動きの意味を、その中心であった地方分権改革に焦点を当ててみてみたいと思います。 U 地方分権改革をどうみるか
1 地方分権改革の経過と背景
(1)地方分権改革の端緒=第三次行革審最終答申
明治維新、戦後改革に続くわが国第3の改革と大々的に謳われた地方分権改革の端緒となったのは、1993年の第3次行革審(臨時行政改革推進審議会)の最終答申でした。同答申は、「21世紀を展望した行政システムの変革の基本方向」として「政府部門の役割の見直し」をあげたうえで、その内容として次の2つの柱を提起しました。
********************************* @官主導から民自律への転換 「新たな内外の諸要請に対応するため、これまでの高度に発達した我が国の社会経済システムのうち、なお官主導かつ中央集権的な特徴を有する諸システムの変革が求められており、官主導の社会経済システムを、民間部門が自己責任の下、その活力を十分発揮でき、自律的かつ主体的に活動していくことができるものに変えていく必要がある。このため、公的規制を削減し、政府事業、特殊法人等の改革を進め、民間部門の活力を大幅にいかした社会を実現する。」 A地方分権の推進 「冷戦構造の終結や、地球的規模の新たな課題の顕在化など国際環境が激変する中で、わが国が今後、国際社会においてどのように生きていくか、その国力にふさわしく責任をいかに分担していくかといった問題の重要性が飛躍的に高まっている。このような状況をふまえ、国は外交、安全保障を始め国の存立に関わる課題により重点的に取り組む体制を築く一方、地域の問題は住民の選択と責任の下で地方自治体が主体的に取り組めるようにする必要がある。」 ********************************** (2)地方分権改革の具体化
これをうけて、1995年には地方分権推進法が制定され、地方分権推進委員会が設置されることになります。同委員会は5次にわたる膨大な勧告を次々に出し、その内容は地方自治法を始めとする地方分権一括法(1999年)へと結実することになります。これらの改革のねらいと性格を端的に示しているのが、第1次勧告に先立って出された同委員会の中間報告(1996年)です。この報告は、「自己決定権―規制緩和と地方分権」という象徴的なタイトルのもとで、次のようにのべています。
「それは、究極のところ、身のまわりの課題に関する地域住民の自己決定権の拡充、すなわち性別・年齢・職業の違いを越えた、あらゆる階層の住民の共同参画による民主主義の実現を意味する。この地方自治レベルにおける住民主導と男女協同の民主主義を基礎にして初めて、国政レベルにおける議会政治もまた一層健全なる発達を遂げることになるものと考えられる。 これを裏返して言えば、地方分権の推進は、『国から地方へ』の権限委譲であり関与の縮少である。そのかぎりにおいてそれは、『官から民へ』の関与の縮小を求め、『官主導から民自律へ』の転換を追求している規制緩和の推進と、軌を一にしている。規制緩和と地方分権は、中央集権的行政システムの変革を推進する車の両輪なのであって、この双方が並行して徹底して推進されたときに始めて、『第三の改革』が成就するのである。」 (3)行政改革会議の最終報告
さらに、地方分権改革と並行して中央省庁改革のあり方を審議していた行政改革会議は、1997年に最終報告を出すことになります。この報告は、「自律的な個人を基礎としつつ、より自由かつ公正な社会を形成するにふさわしい21世紀型行政システム」の構築を目標に掲げ、そのために内閣機能の強化を始めとするさまざまな方策を提言しましたが、地方自治、地方分権のあり方についても重要な提起を行っています。ここには、国=中央政府の側から見た地方分権の位置づけが示されており、地方分権改革の「国家的」性格をみるううえで興味深い内容になっています。以下は、その一節です。
「その際、まず何よりも、国民の統治客体意識、行政への依存体質を背景に、行政が国民生活の様々な分野に過剰に介入していなかったかに、根本的反省を加える必要がある。徹底的な規制の撤廃と緩和を断行し、民間にゆだねるべきはゆだね、また、地方公共団体の行う地方自治への国の関与を減らさなければならない。」 「21世紀の日本にふさわしい行政組織を構築するには、まず、国家行政とその責任領域を徹底的に見直すことが前提となる。『官から民へ』、『国から地方へ』という原則が、その基本とならなければならない。規制緩和や地方分権、官民の役割分担を徹底し、民間や地方にゆだねられるものは可能な限りこれにゆだね、行政のスリム化・重点化を積極的に進める必要がある。」 2 地方分権改革の特徴と性格
(1)規制緩和・民営化との一体性=新自由主義改革のための地方分権
以上のことから分かることは、90年代の地方分権改革は、最初から規制緩和や民営化と一体の課題として位置づけられ、推進されてきたということです。この点において、「国から地方へ」の地方分権改革は、「官から民へ」の新自由主義改革とまさしく一体的な課題であり、「自律的な個人」、「個人の尊重」、「自立的精神と自己責任」、「自己決定権」などの耳障りのいい言葉は、この両者をつなぐイデオロギーとして使われている、ということを見ておく必要があります。地方分権推進委員会の有力委員として地方分権改革で重要な役割を果した西尾勝氏は、地方分権改革の動きが、@行政改革の流れ、A政治改革の流れ、B地方制度改革の流れ、の3つの流れが合流して生まれてきたものであることを指摘したうえで、@の流れについて、つぎのような実に興味深い指摘を行っています。
********************************** 「そこで、この行政改革を強く求めてきた財界から言えば、行政改革はまだ不徹底であるということになり、さらに徹底した行政改革を進めてほしいと政府に迫っているのでありますが、それが現在の段階では規制緩和と地方分権を求める声になってきているのだと思います。 あとにものべますが、昨年1993年の10月に第三次行革審が出しました最終答申は、今後の行政改革の柱を規制緩和と地方分権という二つの柱に求めたのであります。いわば官界と業界の関係を抜本的に改革し、政府の仕事を縮少し、民間の自由の領域を拡大してもらいたいというのが規制緩和でありますし、国と自治体との関係、中央と地方との関係を抜本的に改めて、国の関与を減らし、自治の領域を広げ、それによって国の仕事をスリムにしてもらいたいというのが地方分権であります。 こうして、規制緩和と地方分権という柱を立てることによって、これまで達成できなかったさらに大幅な改革を達成して欲しいというのが行政改革の流れであろうかと思われます。」 ********************************** ここでは、地方分権改革が当初から規制緩和と一体となって進められてきたこと、それが財界の強い要求にもとづくものであったこと、そして地方分権が国の仕事のスリム化を目的とするものであったこと、以上のことが、改革に携わった当事者の立場から率直に語られています。 要するに、90年代の地方分権改革は、住民運動と自治体の要求にもとづく「下からの」改革でなく、経済界の新自由主義的要求にもとづく「上からの改革」であったということです。このような“新自由主義的改革の一環としての地方分権改革”という地方分権改革の性格は、従来の自治論・分権論にはみられなかったものであり、90年代の新自由主義路線の本格的展開のなかで浮上してきたものということができます。これは、住民福祉の向上や団体自治・住民自治の拡充の観点から論じられてきた従来の地方自治論と比較すれば、きわめて特異な議論といわざるをえず、憲法の「地方自治の本旨」の観点から見るならば、自治論ないし分権論の新自由主義的歪曲といわざるをえません。このような地方分権改革の性格は、当然のことながら改革内容にも強い影響を与えることになり、さまざま指摘されている地方分権改革の限界・問題点の根本的原因はまさにこのような地方分権改革の本質にある、ということになります。 (2)国家行政のスリム化・重点化のための地方分権
以上のことと結びついているのですが、地方分権改革のもうひとつの重要な性格は、地方分権が、国家行政の責任領域の見直し、すなわち、中央政府の役割を外交・防衛などに重点化し、福祉・教育等の分野で本来国が果たすべき責任を地方自治体に転嫁するための手段として位置づけられているということです。この位置づけの基本には、軍事国家化というさきにあげた国家戦略があり、それを前提として、国がこの分野での責任を全うできるようにしながら、同時に、もうひとつの戦略である新自由主義路線に基づいて、福祉・教育における国の責任を地方に押し付けていこうという方向がめざされているわけです。最近の三位一体改革の帰結は、見事にこのことを示しているといってよいでしょう。
改正された地方自治法は、1条の2で、「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する」ことを地方自治体の役割として定めたうえで、国は、「国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本」とするとしています。そして、これをふまえて、国と地方公共団体の間の「適切な役割分担」が強調われ、「地方公共団体の自主性及び自立性」の十分な発揮が謳われています。一見するときわめて地方自治に配慮したと思われる規定ですが、以上にのべた90年代地方分権改革の性格と照らし合わせて考えると、これらの規定や文言の意味するところはきわめて明瞭といえるでしょう。 自治法では、これ以外のところでも「国と地方の適切な役割分担」が一種のキーワード的に使われていますが、この「役割分担」論こそ、上にのべた国家戦略を前提とする国と地方の関係のあり方を示すものといってよいわけです。自民憲法草案92条の国と地方自治体の「適切な役割分担」、それをふまえた「相互の協力」義務が意味するところも、まさにこのような意味をもつものといわなければなりません。 <参考>地方自治法(いずれも地方分権改革によって新設されたもの)
1条の2
1項 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
2項 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては、@国際社会における国家としての存立にかかわる事務、A全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務、又はB全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施、その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たっては、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。 2条
11項 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体の間の適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。
12項 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公共団体の間の適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、および運用するようにしなければならない。 V 地方分権改革以後の動き―さらなる地方制度再編へ
さて、本来であれば、ここで地方分権改革以降の動きについてもふれるべきところです。というのは、地方分権一括法以後も、地方自治をめぐって、市町村合併の強行、三位一体改革、道州制の提言など重要な動きがあり、これらがUでのべたわが国の地方分権の新自由主義的性格、軍事国家化を前提とする国の地方への責任転嫁、地方の切捨てという性格をますます鮮明にしているからです。また、これらの動きと並行しながら、中央レベルでは中央省庁改革が進められ、その結果としてきわめて権威主義的な国家体制が作られました。そして、そのもとで、イラク派兵にみられる軍事国家化と、市場化テストに象徴される公務の解体、新自由主義的行政改革の強行が現在進められており、地方自治をめぐる上記の動きは、これらの動きと密接な関連をもって進められているということも押さえておく必要があります。 しかし、時間の関係でここではこれ以上触れることができませんので、以下、用意してきたレジュメの項目のみを掲げておきます。 ************************************** <レジュメ>
V 地方分権改革以後の動き―さらなる地方制度再編へ
1 市町村合併の強行 2 三位一体改革 3 道州制の導入へ〜28次地制調答申 4 地方の自主性・自律性の拡大の意味するもの〜28次地調答申 5 国家機構改革と地方分権の一体性〜内閣主導の権威主義的政策決定 ・強まる首相権限――内閣の強化、内閣府、内閣官房 ・弱まる国会のチェック――あいつぐ「改革」立法 ・顕著な財界主導――経済財政諮問会議、規制改革・民間開放推進会議 6 「官から民へ」と地方分権改革の一体性 ・公務の解体、市場化テスト、公務員削減、行革推進法…… ・格差の拡大、地方の切捨て ************************************* W 改めて自民党案の規定をみる
最後に、これまでのべてきたことをふまえて、改めて草案の地方自治に関する規定の問題点をみてみたいと思います。 (1)地方自治の本旨(91条の2)
最初に、現行憲法でも地方自治に関する最も重要な原理とされている「地方自治の本旨」に関する草案の規定内容の問題です。現行憲法では、「地方自治の本旨」に関する定義的な規定はなく、このことが憲法による地方自治保障の内容をあいまいにする原因のひとつになっているのではないかとの指摘もされてきました。これに対して、草案の91条の2は、「地方自治の本旨」というタイトルのもとで、1項で、「地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う」と定め、さらに2項で、「住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う」と定めています。いわばこれが草案のいう「地方自治の本旨」の中味ということになるわけですが、ここでは、つぎの3つの問題点を指摘しないわけには行きません。
一番の問題は、すでにみたように、「住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施」するというのは、地方分権改革で設けられることとなった地方自治法の規定と基本的に同じもので、先にのべた「国と地方の適切な役割分担」を前提とするものにほかならないということです。この役割分担論が軍事大国化と新自由主義という2つの路線を前提とするものであることは繰り返しのべたとおりです。 2つ目は、「住民の参画」という規定ですが、これもそれ自体は一般受けする言葉なわけですが、すでにみたように、90年代地方分権改革の本質が「上からの改革」であったことをふまえるならば、本当に下からの主体的な住民参加、住民主権を意味するものであるかどうかはきわめて疑問といわねばなりません。むしろ、先にのべた新自由主義的な住民の自立・自己決定の観念と親和的で、軍事大国化と新自由主義路線に住民を誘導し包摂する機能を果たすおそれが強いのではないかと思われます。ちなみに、鳥取県の片山知事は、草案の「住民の参画」は「国民主権」「住民主権」を後退させるものだと批判していますが(自治労連速報104号、2006年2月3日付けより)、まさに本質を突いた発言だと思います。 3つ目は、2項にある「負担の公正な分任」です。これはその直前にある「役務の提供をひとしく受ける権利」とセットになっていることを考えるならば、行政サービスと引き換えの負担の強化、受益者負担の強要を根拠づける規定ということになるでしょう。 たしかに、現行憲法の「地方自治の本旨」という概念自体が不確定・不明確な面をもっていることは否定できません。しかし、戦後の憲法学は、その内容として団体自治と住民自治という地方自治にとって不可欠の2つの要素を含むものであることを明らかにしてきましたし、その内容については、戦後のさまざまな住民運動、地方自治運動の展開によって着実に豊富化されてきました(公害防止条例にみられる法律と条例の関係をめぐる議論などを想起してください)。 いま必要なことは、具体的問題に即しながら、「地方自治の本旨」の内容を理論的にも実践的にもさらに豊富化していくことにほかなりません。草案の定める「地方自治の本旨」に関する規定は、このような本来の「地方自治の本旨」とは全く異質な考え方にたつものといわなければなりません。 (2)国と地方自治体の相互の協力(92条)
草案の92条では、「国及び地方自治体は、地方自治の本旨に基づき、適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない」と規定されています。これは、先にのべた「国と地方の適切な役割分担」を謳ったものですが、ここでは、さらにそれをふまえた相互の協力義務が定められている点に注意する必要があります。もちろん、国と自治体が相互に協力しあわなければならないことは一般的には当然のことですが、そのためには、両者の真の対等性の確立が前提として必要になりますし、協力の目的も日本国憲法に基づく国民・住民の権利保障のためであることが明確にされる必要があります。草案の規定では、これとは反対に、さきにみた「国と地方の適切な役割分担」を前提として、国の施策に対して地方自治体の「協力」を一方的に強いるための機能を果たすおそれが強いといわねばなりません。先日の岩国住民投票をめぐって政府から出されている「防衛問題は国の専権事項だから自治体は口を出すべきではない」、「自治体は国が決めたことに協力すべきだ」という議論は、このような考え方に基づくものといってよいでしょう。
(3)地方自治体の種類(91条の3第1項)
草案91条の3第1項では、「地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括し、補完する広域地方自治体とする」と規定されています。この規定も、それ自体は基礎自治体と広域自治体という自治体の二層制を定めただけのものということになりますが、ここでイメージされている基礎自治体は、今後も続けられる市町村合併を想定したかなり広域的な自治体ということになるでしょうし、もうひとつの広域自治体は、明示はされていませんが道州制を念頭に置いたものであることは明らかでしょう。このような自治体は、基礎自治体にせよ広域自治体にせよ、「住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う」という草案自身の「地方自治の本旨」とも相容れないものというべきでしょう。
(4)地方財政に関する規定(94条の2)
現行規定には、財産管理権を除いて地方財政に関する規定がなく、この点もひとつの問題点として指摘されてきました。草案では、94条の2でいくつかの地方財政に関する規定を新設しています。内容がはっきりしない面もあるのであまり断定的なことは言えませんが、たとえば、1項で地方税について「その分担する役割及び責任に応じ」て課するとしている点は、さきにのべた「国と地方の適切な役割分担」を前提とするものと思われまし、2項では、国が「必要な財政上の措置」を講じる旨の規定も一応置かれていますが、これも、適切な財政調整制度を含めて自治体の自主財源をきちんと保障するものであるかどうかは、三位一体改革の経緯などをみると大いに疑問です。
(5)地方自治特別法に関する住民投票制度(現行95条)の削除
ひとつの自治体のみに適用される特別法についての住民投票を定めた現行95条は、これまで広島平和記念都市建設法などに適用されてきたが、政府の消極的姿勢もあって、適用対象が限定されてきました。しかし、この規定は、特定の自治体のみを対象とする法律については、住民自治の観点から国会の立法権さえも制約しようとするものであり、ある意味では地方自治の原点ともいうべき規定にほかなりません。従来あまり活用されてこなかったという理由で廃止することは、きわめて問題が大きいといわざるをえません。
おわりに
以上、地方分権改革の経緯にもさかのぼりながら、自民党草案における地方自治条項の問題点をみてきました。この間、国民にとって重大な不利益となる政策、憲法的にいえば日本国憲法で保障された国民の基本的人権を侵害するような措置が「改革」の名のもとでつぎつぎに強行されてきましたが、ちょうどそれと並行しながら、地方レベルでは、住民生活を破壊し、住民の権利をないがしろにするような諸政策が、「地方分権」、「地方の自主性・自律性」、「住民の自己決定」、「地域に身近な行政」といった名目のもとで進められてきました。 90年代以降の地方自治をめぐる動きの大きな特徴は、地方にかかわる一連の政策・施策がいまあげたようなさまざまな美しい言葉で飾られてきたという点にあります。かつては自治権の真の確立・拡充をめざして革新運動の側が使ってきたこれらの言葉が、現在は、政府、与党、財界によって声高く叫ばれるという状況が生れているわけです。それが意味するとろについてはすでにこれまでの話のなかでたびたび触れてきましたが、私たちは、自民党草案にも使われているこれらの耳障りのいい言説に惑わされることなく、しっかりと本筋を見据えながら、真に住民福祉の向上、住民の権利保障につながる地方自治のあり方を追求していく必要があると思います。 冒頭にものべたように、自民党新憲法草案の地方自治条項について論じた地方自治研究者の論文が見つかりませんでしたので、以上にのべたことはあくまで私見にとどまりますが、今後の議論の参考にしていただければ幸いです。それでは、これで終わらせていただきます。 ☆☆☆なお、自民党新憲法草案(地方自治)と現行憲法との対照については、下記を参照してください(編集部)。☆☆☆ 自民党新憲法草案(地方自治)現行憲法対照表
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