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![]() 【No.63/2006.04.07】 道州制導入の条件整備と第28次地制調の「道州制のあり方」答申 渡名喜 庸安
(広島修道大学)
この論考は、研究機構の地方分権研究会や自治労連役員を対象とした学習会などにおける渡名喜教授の報告に手を加えていただいたものです。渡名喜教授のインフォメーション・サービスNo.46(2004年6月30日)「合併関連三法の制定をどう見るか」及びNo.60(2006年2月23日) 「道州制論の流れと現段階 」などを参照していただけると、今日の道州制問題の概要がよく理解できると思われます。
なお、これらの論考は、主として地方制度調査会の答申などを分析したものですから、道州制の導入を主張している財界等の提言や、道州制が導入されようとしている背景などを直接の分析対象にしているわけではありません。このような問題を含めた道州制全般の問題については、研究叢書第4号で全面的な分析を加えるべく取組中です。 第28次地方制度調査会の最終答申を読み解く上での学習の素材として、広くご活用ください(編集部)。 はじめに
ご承知のように、第28次地方制度調査会は、昨年12月9日に内閣総理大臣に「地方の自主性・自律性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申」を提出したのに続いて、本年2月28日に「道州制のあり方に関する答申」を提出しました。この答申は、「その〔道州制の〕導入は地方分権を加速させ、国家としての機能を強化し、国と地方を通じた力強く効率的な政府を実現するための有効な方策」(前文)と位置づけていますが、答申でいう「地方分権の加速」とはどのような文脈で理解すべきなのだろうか、「国家としての機能を強化」とはいかなる意味をもつのだろうか、「国と地方を通じた力強く効率的な政府」とはどのような国家像がイメージされ、その下で地方公共団体はどのように位置づけられているのだろうか。
本日の報告では、これらの諸点について、第28次地制調答申に至るまでの道州制論とのかかわりで検討し、第28次地制調の「道州制のあり方に関する答申」の内容を紹介しながら、憲法の保障する「地方自治の本旨」に基づく地方自治が今日どのように変容されようとしているのか、そこにおける課題は何かについて考えてみたいと思います。 T 今日の道州制論の出発点と導入のための条件整備
1 今日の道州制論の出発点
今日における道州制論の出発点に位置づけられるのは第3次臨時行政改革審議会最終答申(1993年)と行政改革会議最終報告(1997年)です。
前者の行革審最終答申は、現行の都道府県と市町村の体制(二層制)を維持することを明言し、道州制については長期的な課題として先送りしているものの、21世紀を展望した行政システムの変革の基本方向として、@官主導から民自律への転換(官から民へ)、A地方分権の推進(国から地方へ)についての改革の方策を打ち出しました。第3次行革審答申で打ち出された新しい「広域行政体制づくり」は、この「国から地方へ」「官から民へ」への行政改革の方針の具体化として位置づけられることになります。第3次行革審最終答申で「国から地方へ」「官から民へ」という行政改革の基本理念が打ち出されて以降、地方分権、中央省庁改革、規制緩和というものが三位一体として国家機能のスリム化(純化)を図る観点から相互に密接に絡みながら展開されてくることになってきます。 「国から地方へ」に関しては、その翌年(1994年)に第24次地制調が「地方分権の推進に関する答申」「市町村の自主的な合併の推進に関する答申」を発表し、その中で、@国と地方公共団体の役割分担、A国から地方公共団体への権限移譲等の推進、B市町村合併の推進などについて提言がなされます。 他方で、「国から地方へ」「官から民へ」の双方に関しては行政改革会議最終報告が重要な基本的方向性を示すことになります。すなわち、同報告では、「公共性の空間」は「中央の官の独占物ではなく、地域社会や市場も含め、広く社会全体がその機能を分担」していくべきとする「新しい公共論」が展開され、そこでは、民=市場も公共サービスの担い手(→中央省庁等改革基本法4条3号参照)とされ、「公」の基本的役割=「条件整備団体」(enabling authority)への転換、すなわち行政の役割が「サービスの提供者」(provider)から「条件整備者」(enabler)への転換の方向性が示され、「民でできることは出きり限り民で」(中央省庁等改革基本法)の標語が実定法でも用いられることとなってきます。 2 道州制の導入のための条件整備
(1) 中央省庁改革(中央省庁等改革基本法+各省設置法改正)
前述の行政改革会議最終報告に基づき中央省庁等改革基本法の制定および各省設置法の改正により中央省庁等改革が行われました。中央省庁改革が道州制論とのかかわりで注目されるのは、中央省庁等改革基本法(以下「基本法」)において地方支分部局がブロックごとに大括りに編成されるとともに、地方分権の名において、中央省庁における本庁と地方ブロック出先機関との役割分担が行われ、本省の役割は所掌事務についての企画立案・予算編成・総合調整に限定され、許認可や事業執行権限および予算のとりまとめと執行権が大括りに編成された地方支分部局(以下「地方出先機関」)に委任されたことです。ちなみに、国土交通省設置法45条5項は「地域振興や施設整備に係る企画立案、調査助言機能は一の都道府県を越える単位毎に調整する仕組みを整備」する、同条6項は「許認可・補助金の交付は地方支分部局の長に委任し、当該手続が当該支分部局で完結する」ようにする旨規定しています。また、同法46条1項は「(国の直轄事業は)全国的な見地から必要とされる基礎的又は広域的な事業」に限定し、「統合補助金の交付で地方公共団体に裁量的に施行させる」(第2項)こととし、これに対応して事業決定および施行は「出来る限り地方支分部局の長に委任する」とともに、地方支分部局の長の判断で事業決定および施行ができるよう「所要の予算額を一括して配分」する旨規定しています。
国土交通省(従前の建設省、運輸省、国土庁などが統合)を例にとれば、同省設置法により、従前本庁の権限とされていた事務事業のうち、@都市計画行政、A土地区画整理事業、B市街地再開発事業、C街路事業、D都市公園事業、E下水道事業、F公営住宅整備事業、G土地収用制度、H建設業行政、I不動産業行政、J建設関連行政、K河川・道路関連の補助事業に関する許認可権や事業執行権が同省のブロック出先機関である地方整備局の長に委任され、国際協力や国際的な業務を除いて本庁とほぼ同様な組織が地方整備局におかれることにより組織整備もすでに完了しているところです。 中央省庁内部におけるこのような「分権改革」は、明確な議論はなかったものの、将来的な課題としての道州制の導入を視野に入れた改革であったものと推察されます。また、国土交通省における本庁と地方整備局の役割分担にかかわり、国土総合開発計画法が改正され、国土開発の基本理念が「国が主導して国の責任で国土の均衡ある発展を目指す」から「ブロック間単位毎の広域計画を地方の意見で策定する」旨への転換(同法は基本理念として「地域の特性に応じた自立的発展」「地方公共団体の主体的取り組みを尊重」することを謳い、広域地方計画は「二以上の都府県の区域」で主要施策を定め、「国の地方支分部局と関係都府県、関係指定都市で協議会」をもつとしている)が目指されているのも、地方分権の推進、ひいては道州制導入を視野に入れたものと位置づけることができるように思います。ちなみに、中央省庁等改革基本法22条5項は、国土交通省支分部局の権限に関して「地方分権推進会議の勧告を着実に実施、地方公共団体への権限移譲、民間能力の活用を図る」旨規定していたところでした。 (2) 第一次地方分権改革
上記のような中央省庁改革(第一次中央省庁改革)が行われるのと歩調を合わせる形で、周知のように、1999年に地方分権一括法の制定、地方自治法改正が行われ、第一次地方分権改革が行われます。機関委任事務の廃止と国の関与の縮減を主な内容とする第一次地方分権改革において、道州制論とのかかわりで注目されるのは、なお都道府県と市町村の二層制を前提とするとしながらも、次のように、国と地方の新たな役割分担を明文化したことでしょう。
地方自治法1条の2(地方公共団体の役割と国による制度政策等の原則)
@ 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
A 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては、(a) 国際社会における国家としての存立に関わる事務(以下「国家としての存立に関する事務」)、(b) 全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する準則に関する事務(以下「基本的な準則に関する事務」) 又は (c) 全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施(以下「全国的規模等の施策・事業の実施」)その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策に実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。〔注―条文中の実線・カッコ書きは報告者〕 このように国と地方の役割分担として、地方自治法では、国は国が本来果たすべき役割にかかる(a) 「国家としての存立に関する事務」、(b)「基本的な準則に関する事務」、(c)「全国的規模等の施策・事業の実施」の事務を重点的に担うこととされ、それとの対応で「地域における行政」は「住民に身近な行政」としてできる限り地方公共団体に広く委ねるという原則が採用されました。 なお、第一次地方分権改革以降の論議においては、「地方自治の本旨」への言及は一切なく、この国の役割の重点化を主眼とする「国と地方の役割分担」論が理論的基軸として用いられてきます。自治体優先の原則を採用したものとも読めますが、注意しなければいけないのは、上記地方自治法1条2第1項にいう「自主的かつ総合的に実施」の意味するところです。この点について、総務省の解説によれば、「『自主的』とは、自らの判断と責任に基づくこと、すなわち『自己決定』と『自己責任』を原則とすること」であり、「また『総合的』とは、関連する行政の間の調和と調整を意味する総合性と、特定の行政における企画・立案、選択、管理・執行などを一貫して行うという総合性との両面の総合性を意味するもの」と解されています 。したがって、「地域における行政」、たとえば教育や福祉など住民生活に関連する行政領域については、国に依拠することなく、地方の「自己決定」に基づき自らこれを「選択」し、「企画・立案から管理執行まで」「自己責任」で実施する唯一の主体として位置づけていくことが含意されています。このことは、逆にいえば、「地域における行政」については国は行政責任を負わない、これを地方自治体に転嫁するということを意味することになります。 (3) 市町村合併の推進と都道府県の終焉論
このよう意味をもつ「自己決定」と「自己責任」を核心とする地方分権がこの間行われてきましたが、第一次地方分権改革では、なお都道府県の存置を一応の前提としていましたが、1999年以来国の強力な主導のもとで展開されてきた「平成の大合併」は都道府県の存廃問題を提起することになっています。
周知のように、都道府県制度は明治23年の府県制以来の長い歴史と伝統を有し、日本国憲法の制定による完全自治体化によって直接公選の知事と議会を擁することになった都道府県は、「広域的な地方公共団体」として「基礎的な地方公共団体」たる市町村の機能を補完しつつ、客観的には、中央集権権力に対抗して地域住民の生活利益を擁護するという地域的統治団体としての役割を果たしてきたといえます。 しかし、この間の「平成の大合併」の推進により、都道府県から市町村への大幅な権限移譲が行われ、都道府県の役割や位置づけの再検討が迫られることになるとともに、市町村合併を契機に指定都市・中核市・特例市に指定される市が増加したことも、都道府県の空洞化を招き、都道府県行政のあり方を問わしめることになっています。地方制度調査会の第27次答申の言葉を借りると、「都道府県は、社会活動が広域化、グローバル化する中で、広域自治体としてその自立的発展のために戦略的な役割を果たすべく変容されていくことが期待されている」ことになります。こうして、都道府県と市町村の二層制を前提として行われた第一次地方分権改革以降、「真の分権型社会の確立」(=第二次分権改革)が目指される中で、都道府県の役割の終焉論が説かれ、都道府県に代わる新たな広域自治体の導入が提言されるところことになっていきます。 (4) 第27次地方制度調査会「今後の地方自治制度のあり方」答申
27次地制調答申は、「地方分権時代における真の分権型社会の確立」を目指すという観点から基礎自治体と広域自治体の広域再編の方向を打ち出すとともに、広域自治体については制度改革の具体化の方向と道筋を示しました。
まず、前者の基礎自治体に関し、第27次地制調において、議論の軸はいかにして「自立できる基礎自治体」を創るかに設定されます。そこでは基礎自治体が住民に身近な総合的な行政主体であることが強調され、住民生活に関連する行政はフルセットで基礎自治体たる市町村が担っていくことが想定されます。そのために、規模・能力を拡大するために、さらに一層市町村合併を推進する方向が目指されています。総合的な行政主体論が、先に述べた「自己決定」「自己責任」論を内包していることはいうまでもありません。そのような意味での基礎自治体に再編する手段として市町村合併が明示的に位置づけられているところです。 他方で、広域自治体のあり方については、都道府県合併の積極的推進が打ち出されるとともに、「国の役割を重点化し、その機能を地方公共団体に移譲するとともに、真の分権型社会にふさわしい自立性の高い圏域を形成していく観点から、現行の都道府県に代わる広域自治体として道又は州(仮称。以下同じ)の導入を検討する必要がある」と述べ、初めて都道府県の廃止を明言しつつ、いわゆる「道州制」の導入という制度改革案を提言しています。 それに伴い、都道府県廃止に向けたシナリオが随所に触れられています。たとえば、@市町村との関係における都道府県の補完機能の縮小、A指定都市・中核市・特例市へ権限移譲の促進(中間報告にあった「大都市地域においても都道府県の役割は重要」の部分が最終答申では削除)、B市町村が都道府県に事務権限の移譲を要請できる制度を創設、C市町村(基礎自治体)のみを総合的行政主体と位置づける(都道府県についてはそのような位置づけはしない)、D道州制に道を開くための都道府県合併手続の簡略化を図る、などです。都道府県の廃止を展望しつつ、それに代わる広域自治体としての道州制については、国の機能の受け皿としての役割が構想されています。 なお、第27次地制調答申の基本的内容は次のようなものでした。 「道州制の導入は、単なる都道府県の合併とか国から都道府県への権限移譲といった次元にとどまらない地方自治制度の大きな変革であり、国民的な意識の動向を見ながら、引き続き次期地方制度調査会において議論を進めることとするが、当調査会としては、今後議論すべき論点について、現時点では次のように考え方を整理することとした。 @基本的考え方 道州制は、現行憲法の下で、広域自治体と基礎自治体の二層制を前提として構築することとし、その制度及び設置手続は法律で定める。 ア 現在の都道府県を廃止し、より自主性、自立性の高い広域自治体として道又は州を設置する。 イ 道州制の導入に伴い、国の役割は真に国が果たすべきものに重点化し、その多くの権限を地方に移譲する。 ウ 道州の長と議会は公選とする。 エ 道州の区域については、原則として現在の都道府県の区域を越える広域的な単位とし、地理的、歴史的、文化的な諸条件を踏まえ、経済社会的な状況を勘案して定められるものとする。 A役割と権限 道州制の導入に伴い、国の役割は真に国が果たすべきものに重点化し、その事務権限の相当部分を地方に移譲する。すなわち、国は、現行地方自治法上、(a) 「国家としての存立に関する事務」、(b)「基本的な準則に関する事務」、(c)「全国的規模等の施策・事業の実施」などの役割を担うこととされているが、道州制が導入された後は、国の役割は、(a )、(b)のほか、( c)のうち限定された一部に縮小されることになる。 道州は、規模・能力が拡大された基礎自治体を包括する広域自治体として、基礎自治体との適切な役割分担の下に圏域全体の視野に立った産業振興、雇用、国土保全、広域防災、環境保全、広域ネットワーク等の分野を担うものとする。また、国の地方支分部局が持つ権限は、例外的なものを除いて、道州に移管する。」 U 道州制導入の検討の提言――第28次地方制度調査会答申
第27次地制調答申を受け、「道州制のあり方」について審議してきた第28次地制調は、2月末にと答申を提出しましたが、道州制の実現を通じて「国のかたち」と「新たな地方自治のかたち」を創設することを提言しました。答申の前文によれば、「将来に向けた創造的発展を図るための改革」を推進する上では、「国と地方が適切に役割を分担し、地域における行政は地方が自主的かつ総合的に担うとの視点、すなわち地方分権の視点」が不可欠であるが、その点、現状はなお「分権型社会にふさわしい役割分担が実現しているとは言い難い」といいます。「道州制は、国と基礎自治体の間に位置する広域自治体のあり方を見直すことによって、国と地方の双方の政府を再構築しようとするものであり、その導入は地方分権を加速させ、国家としての機能を強化し、国と地方を通じた力強く効率的な政府を実現するための有効な方策となる可能性を有している」と述べています。
地方分権の意味するところについては既に述べたところですが、「自己決定」と「自己責任」をキーワードとし、住民生活領域における行政責任の構造転換を意図する地方分権をいっそう推進する観点から道州制の導入が意図され、その導入を通じて「国家としての機能」の強化が目指されていることが端的に述べられています。 なお、答申の構成は、「第1 都道府県制度についての考え方」、「第2 広域自治体改革と道州制」、「第3 道州制の基本的な制度設計」、「第4 道州制の導入に関する課題」からなっています。ここでは、まず、答申内容を紹介することにします。 1 都道府県制度についての考え方
まず、「都道府県制度についての考え方」として、答申は「都道府県は、(これまで)広域の地方公共団体として広域事務、連絡調整事務及び補完事務を処理し、住民福祉の増進を図るため相当の機能を担ってきたといえる」けれどm、「現行の都道府県制度のままでこの(最近の社会経済情勢の)変化に対応していくことが可能か、さらに一層の推進が求められている地方分権改革の担い手としてふさわしいかどうか」自問し、その点、第一に、一方における「市町村合併の進展」による都道府県から市町村への大幅な権限移譲により、他方における指定都市等の増加によって、都道府県の役割や位置づけの再検討が迫られていることを、第二に、「都道府県の区域を超える広域行政課題に適切に対処し得る主体のあり方についても、検討が求められている」と自答します。
そして、第三に、国と地方の役割分担に関し、「現に国が実施している事務を見れば、---特にA「基本的な準則に関する事務」、B「全国的規模等の施策・事業の実施」の区分に属するとされている事務のうちには、----事務の拡がり等に見合った区域を有する広域自治体として規模・能力が整うならば、本来広域自治体に移譲することが望ましいものも多く存する」と述べます。先に第一次地方分権改革により、地方自治法1条の2で国と地方の役割分担の原則が定められてきたことを見ましたが、これまで国の枠割りに係るものとして国が実施してきた「全国的規模等の施策・事業の実施」」のみならず、「A「基本的な準則に関する事務」についても道州へ移譲する方向が、ここでは構想されているようです。 2 広域自治体改革と道州制
(1) 広域自治体改革のあり方
答申は、広域自治体改革を次のように位置づけています。すなわち、「わが国の将来を見通すときには、広域自治体改革を、都道府県制度に関する問題への対応にとどまらず、国のかたちの見直しにかかわるものものとして位置づけることが考えられる。すなわち、広域自治体改革を通じて国と地方の双方の政府のあり方を再構築し、国の役割を本来果たすべきものに重点化して、内政に関しては広く地方公共団体が担うことを基本とする新しい政府像を確立することである。このことは、国家として対応すべき課題への高い問題解決能力を有する政府を実現する方途でもある。」そして、広域自治体改革のあり方としては、「国と地方及び広域自治体と基礎自治体の役割分担の見直しを基本とし、これに沿った事務権限の再配分やそれぞれの組織の再編、またそれにふさわしい税財源制度を実現できるものとすべきであり、その具体策としては道州制の導入が適当と考えられる。」としています。
(2) 道州制の検討の方向
つぎに、第28次地制調は、道州制の検討の方向として、(1)地方分権の推進及び地方自治の充実強化、(2)自立的で活力ある圏域の実現、(3)国と地方を通じた効率的な行政システムの構築の3点を挙げています。これまでの専門小委員会での議論では、道州制が求められる要因として、(1)地方分権の一層の推進、Aブロック単位での地域戦略、B広域における総合的かつ主体的な政策決定が挙げられてきました。答申では上記のような表現に変わっていますが、(1)にかかわり、そこでの「地方自治の充実強化」の意味するところは何か。道州制の導入は、本来の意味での「地方自治の充実強化」に資することになるのか、(2)にかかわっても、道州制の導入が「自立的で活力ある圏域の実現」に資することになるのか、「グローバルの中で期待される圏域間競争は、ブロックを単位として実現される」(31回専門小委員会「道州制の制度設計に関する調査審議の概要」)ことになるのか、が問われてくるように思います。
(3)の「国と地方を通じた効率的な行政システムの構築」に関しては、「道州制を導入する場合には、国から道州への権限移譲や、法令による義務付けや枠付けの緩和を進めることによって、道州が、その役割にかかる事務について企画立案から管理執行までを一貫して実施することを可能とし、国と地方を通じて行政の効率化と責任の所在の明確化が図られるようにすべきである。また、行政組織等に関しても、----国と地方を通じた組織や職員、行政経費の削減を目標とを定めて実現すべきである」ことが強調されています。ここでは、道州における「自己決定」「自己責任」の強調(道州の事務に関する国家責任の放棄)とともに、道州制の趣旨が、もっぱら国と地方を通じた効率的な行政システムの構築に置かれていることが特徴となっています。答申では、「効率性」という言葉が随所で使われていますが、他方で「民主的かつ公正」という表現は皆無です。行政の民主的運営という視点は軽視されているとっても過言ではありません。 3 道州制の基本的な制度設計
答申は、道州制の基本的な制度設計として、次のように述べています。
(1) 道州の位置づけ 「広域自治体として、現在の都道府県に代えて道又は州(以下「道州」)を置く。地方公共団体は、道州及び市町村の二層制とする。道州は、基礎自治体たる市町村と適切に役割分担しつつ、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」 (2) 道州の区域 ・道州の区域は、「現在、各府省の事務を分掌させるため全国を区分して設置されている地方支分部局に着目し、基本的にその管轄区域に準拠し」て、@9道州(北海道、東北、北関東信越、南関東、中部、関西、中国・四国、九州、沖縄)、@11道州(@の北関東信越、中部の一部を北陸、東海に分け、中国と四国を分離)、B13道州(Aに東北、九州を南北に分割)の3パターンを例示し、東京都については単独の道州とすることも考えられるとしています。 (3) 道州への移行方法 ・道州制への移行は、全国同時が原則であるが、部分的な先行も認めるとしています。 (4) 道州の事務 「現在都道府県が実施している事務は大幅に市町村に移譲し、道州は、『圏域を単位とする主要な社会資本形成の計画及び実施』、『広域的な見地から行うべき環境の保全及び管理』、『人や企業の活動圏や経済圏に応じた地域経済政策及び雇用政策』などの広域事務を担う役割に軸足を移すこととする。-----これまで都道府県が担ってきた補完事務については、-----道州は、『高度な技術や専門性が求められ、また行政対象の散在性の認められる事務』等に重点化して担うこととする。-----現在国(特に各府省の地方支分部局)が実施している事務は、国が本来果たすべき役割に係るものを除き、できる限り道州に移譲することとする。」 (5) 道州の議会 「道州に議決機関としての議会を置く。議会の議員は、道州の住民が直接選挙する。議会の権能及び長との関係は、現行の都道府県に関する制度を基本とする。」 (6) 道州の執行機関 「執行機関として長を置く。長は、道州の住民が直接選挙する。長の多選は禁止する。」 ・その他の執行機関-----「道州には、審査、裁定等の機能を担うものを除き、原則として行政委員会の設置を法律で義務づけないことする。」 (7) 道州と国及び道州と市町村の関係調整 国(主に地方支分部局)から道州へ移譲される事務は原則として法定受託事務に分類するとされています。この法定受託事務については、新たな関与(監視を求めることができる仕組み)の新設が考えられるとしています。 (8) 大都市等に関する制度(略) (9) 都道府県であった区域の取扱い(略) (10)道州制の下における地方税財政制度(略) 4 道州制の実現(都道府県制から道州制への移行)
答申では、「道州制の導入は---国と地方の双方の政府のあり方を再構築するものと位置づけられ」ており、したがって「これにかかわる検討課題は、国の政治行政制度のあり方や国と地方の行政組織のあり方、また国と地方を通じた行政改革との関連など広範にわたるものである」。そのため、答申は、「道州制導入の提言」ではなく、道州制を導入する場合の制度設計の提示にとどめ、「国のかたちを見直すという見地に立つならば」との前提をつけたうえで、「導入が適当」との表現を盛り込み、道州制の導入については国民的な論議の動向を踏まえて判断すべきとの考えを示し、具体的な導入時期などには触れていません。導入に向けた具体的な審議は、地方制度調査会とは別の組織で審議されることになると予想されます。
V 道州制論をめぐる課題
以上のような内容をもった第28次地制調答申の「道州制のあり方」の提案にかかわって、課題となると思われる点について、さしあたり次の諸点について述べることとします。
1 道州制と「国のかたち」
今日、道州制はどのような趣旨のもとでどのように位置づけられているのか。その点、第28次地制調答申において道州制は、単なる自治体再編にとどまるものではなく、「国と地方の双方の政府を再構築しようとするもの」として、換言すれば、「国のかたち」と「新たな地方自治のかたち」の構築を通じて「国のあり方」=政府全体の再構築を目指す国家統治機構の再編のための手段として位置づけられています。
これを敷衍していえば、答申では、「国のかたち」として、「国の役割を本来果たすべきものに重点化して、内政に関しては広く地方自治体が担うことを基本とする新しい政府像を確立する」ことがイメージされ、そのために一方では「国家として対応すべき課題への高い問題解決能力を有する政府を実現」することにより「国家としての機能を強化」する、他方では「新たな地方自治のかたち」として「国と地方を通じた力強く効率的な政府を実現する」旨の基本的な方向性が示され、そのための「有効な方策となる」ものとして道州制が位置づけられています。 ここで再構築されようとして新たな政府像というのは、内政に関する政府像しては「地方分権国家」であり、グローバル化の下での政府像としては強力な「グローバル国家(「国際貢献国家」)」であるといってよいでしょう。答申において国の役割はますます国際社会における国家としての役割(外交・防衛〔軍事〕・金融など)、危機管理、国際協力などの行政に限定され、内政に関しては道州および基礎自治体の役割とされていたからです。なお、「強力な国家」を目指すための道州制の導入は、これが視野に入ってきますと、この間、中央省庁における本庁と地方出先機関の役割分担論(本庁が企画立案・予算編成・総合調整、大括りに編成された地方出先機関が許認可・事業執行権が担う)の流れに沿って、この国の地方出先機関の機能を道州に移譲するという国・地方の新たな役割分担論を通じて「第2次」中央省庁改革が今後再燃することは必至であろうと思います。 道州制の導入が目指す新たな政府像としての「分権型(分散型)国家」、「グローバル国家(国際貢献型国家)」(これらの点については学際的に具体的に実証していく必要があります)は、果たして憲法的価値(基本的人権の尊重、人権保障のための統治機構、憲法の保障する地方自治の意義、平和主義など)に適合するものであるかが、改めて問われてくることになります。行政のあり方(公共性)、政府のあり方そのものが問われてくるといってもよいでしょう。 2 道州制と「新たな地方自治のかたち」
答申では前述のように、道州制の導入を通じて「新たな地方自治のかたち」の構築の必要性が強調されています。その際、答申では、これまでの諸答申におけると異なり、次のように、「地方自治の充実強化」が謡われていることに留意が必要です。すなわち、「道州制を導入する場合には、補完性の原理及び近接性の原理に基づいて、国、広域自治体、基礎自治体の間の役割分担を体系的に見直し、都道府県から市町村へ、また国から道州への大幅な権限移譲を行うことが重要である。この場合、基礎自治体の財政基盤の充実を図り、住民に身近な行政については基礎自治体が総合的に担うことができるようにするとともに、広域の圏域における行政は、選挙により選ばれた長や議会を有し、民主的プロセスを通じた住民のコンセンサス形成の仕組みを備えた広域自治体たる道州が、できる限り総合的に担うこととすべきである。これにより、地域における政策形成過程への住民の参画が拡大し、深化するとともに、行政に対する住民の評価や監視が実効あるものとなり、自己決定及び自己責任を基本とした地域社会が実現する」、と。
「新たな地方自治のかたち」とは具体的にどのような地方自治制度をいうのか。答申は、「地方自治の充実強化」を謡うものの、これが憲法の定める地方自治の本旨に基づくものを意図するものなのであるのか(答申では「憲法による地方自治の保障」「地方自治の本旨」などの文言はいっさい登場しません。そもそも答申でいう「地方自治の充実強化」はいかなる意味での「地方自治」の充実強化なのだろうか。 (1) 地方公共団体の存立理由
現行憲法の下で地方公共団体(自治体)は、住民の権利利益の実現(実現)を目的として、住民自治に基づいた民主的運営が求められる地方レベルの統治団体(政治行政主体)としての地位に置かれています。この点、答申では、もっぱら「効率性」のみが強調され、地方公共団体が単に行政主体であるにとどまらず、政治主体(政治の基本単位)であることが軽視されています。改めて、自治体の政治・行政の存立理由が問われています。 現行憲法はいかなる趣旨でいかなる理由により国から独立した法人格をもつ地方公共団体を設置し、これに地方自治の本旨に基づく地方自治を保障したのか。憲法による地方自治の保障の理由として、何よりも重要なことは、民主的な国政の基盤の形成というその存立目的にあります。「地方自治は国民主権を実現する原理」といわれますが、その意味での地方自治が憲法により保障されたのは、地方行政の民主化をさらに徹底し、もって国政民主化の基底を培うことが特に必要であることが考えられたからでした。主権の地域レベルにおける担い手である住民が地方自治体の組織運営に参加する権利をもつことがひいては日本の政治の民主化に直接結びついていくという論理が、そこでは強調されてました。 地方自治法上さまざまに採用されている住民参政制度や、住民投票制度、パブルックコメント制度などもこうした趣旨の下で理解されるものです。自治体の政治・行政は、こうした制度的基盤に立って、住民自治に基づいた住民参加的な合意形成スタイルで実施されることが規範的にも実態的にも求められるという特徴をもっています。
このように、自治体の政治・行政には、おのずから国がこれを行う場合と異なった存立目的が付加されていますが、「国と地方の政府のあり方」を「効率的に」再構成しようとする答申の基調は、こうした地方公共団体の存立理由を露骨に軽視するものであるように思います。 (2) 道州制の導入と「地方自治の充実強化」の意味するもの
@道州の憲法上の位置づけについて
第27次地制調答申が「道州制は、現行憲法の下で、広域自治体と基礎自治体との二層制を前提として構築する」としていたのに対して、第28次答申では道州が憲法上の地方公共団体にあたるのかについては何ら触れられていません。道州はそもそも憲法上の地方公共団体たりうるのか。道州が憲法上の地方公共団体とされる場合には、議会の設置、議会の議員および長の公選制が規範的に要請されるとともに、地方自治法上の普通地方公共団体として「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における事務」を担うことになり、地方自治の本旨に基づき団体自治および住民自治の充実強化が要請されることとなります。その点、答申では、道州制が憲法上に位置づけられるものであるかについて何ら触れていません。道州制の下では住民自治の充実はどのように図られるのか、広域自治体としての道州と基礎自治体としての市町村との「適切な役割分担」とはどのような関係をいうのかが問われてきます。
A基礎自治体と道州制の二層制について
まず、基礎自治体の役割について、答申は、基礎自治体の役割として、「地域のナショナルミニマムサービスを総合的に供給する行政主体」(自己完結型の総合的行政主体)として位置づけています。それは、基礎自治体重視を意味するものではあるものの、内政事項のうち、とくに住民の生活に関連する行政領域の担い手としての基礎自治体が、当該事務について「企画立案から管理執行に至るまで」「自己決定・自己責任」の考え方の下で「選択と集中」および利用者の「受益と負担」により運営することが含意されています。当該行政のついての行政責任の構造転換を意図するものであることは既に述べたところですが、答申では、国のナショナルミニマムの確保に関する責任は基準設定にとどまっています。
基礎自治体の存立については、都市型基礎自治体の形成が目指されています。このことは、他方において人口1万未満の町村は「自己完結型の総合的行政主体」たりえないことを意味し、新市町村合併方によってもなお合併しない(合併に至らない)人口1万未満の町村は「特例団体」として扱っていくことが構想されているようにも見えます。その場合、基礎自治体が「自己完結型の総合的行政主体」とそうでない「特例団体」=準自治体で構成されることになります。市町村(基礎自治体)の存立は憲法の要請するところですが、同じ性格・権能・目的をもつ基礎自治体(市町村)が全国に普遍的に存在しなくなるという事態も想定されるところです。 次に、都道府県に代わる広域自治体として道州制を導入する提案を行う答申は、道州と基礎自治体の二層制を構想していますが、道州制と基礎自治体からなる二層制は都道府県と市町村からなる二層制に代わりうるか、が問われます。 答申では、道州の役割と存立に関し、「現在都道府県が実施している事務は大幅に市町村に移譲し、道州は、『圏域を単位とする主要な社会資本形成の計画及び実施』、『広域的な見地から行うべき環境の保全及び管理』、『人や企業の活動圏や経済圏に応じた地域経済政策及び雇用政策』などの広域事務を担う役割に軸足を移す」こととされ、都道府県に代わる道州は、超広域的な事務に限定され、「住民に身近な行政の総合的な行政主体」としては位置づけられていません。道州の基礎自治体との関係も、都道府県が広域機能、連絡調整機能、補完機能をもっていたのに対し、「新たな地方自治のかたち」では、基礎自治体の自己完結型行政主体が強調される一方、「これまで都道府県が担ってきた補完事務については、-----道州は、『高度な技術や専門性が求められ、また行政対象の散在性の認められる事務』等に重点化して担うこと」とされています。すなわち、「新たな地方自治のかたち」としては、基礎自治体が総合的行政主体としての基礎自治体と「特例団体」=準自治体で構成されることを前提に、後者の「特例団体」とのかかわりにおいてのみ道州は補完機能を担うこととされているように読めます。 また、道州の国との関係も、「現在国(特に各府省の地方支分部局)が実施している事務は、国が本来果たすべき役割に係るものを除き、できる限り道州に移譲することとする」とされますが、「国から道州に移譲される事務のうち、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものについては、現行制度に規定された法定受託事務に位置づけることとする。更に必要な場合には、当該事務に関係する各大臣が、道州に対し監査を求めることができる仕組みを導入する」とされ、国(主に地方支分部局)から道州へ移譲される事務は法定受託事務に分類され、これについては現行法上の法定受託事務に対する強力な関与に加え、新たな関与システム(監視を求めることができる仕組みの新設)さえ構想されています。 なお、国と道州の役割分担について、第27次答申では地方自治法1条の2の定める国の役割に係る事務、すなわち@「国家としての存立に関する事務」、A「基本的な準則に関する事務」、B「全国的規模等の施策・事業の実施」のうち、Bの事務を道州に移譲することとされていたのに対し、本答申では、Aの一部とBを中心に道州へ移譲される事務が拡大されています。 以上のことからすると、道州制と基礎自治体からなる二層制は都道府県と市町村からなる二層制とは異質のものであり、答申のいうように法制度上形式的には道州と基礎自治体の二層制が採用されたとしても、自治体としての道州は実質的には「国の代行機関」として機能することが懸念され、事実上は基礎自治体のみの一層制となってしまうおそれが多分にあります。 終わりに
現行憲法の下で、地方自治制度は、国民主権国家における不可欠な民主主義的法制度の基盤として存立し、そこでは国民主権原理の地域レベルにおける担い手である住民による自治が中核的な要素とされています。政府・地方制度調査会の諸答申は、基礎自治体の形成を提唱するとともに、「地方自治制度の大きな変革」(第27次答申)を伴う道州制の導入の方向性を示しているにもかかわらず、これら自治体再編論は必ずしも憲法の定める「地方自治の本旨」の視点から論じられるのではなく、もっぱら法律(地方自治法)の定める「国と地方の役割分担」論に基づいて、それも「国の役割の重点化」の観点から論じるものであって、そこに憲法的視点を見ることは困難です。 また、今日の自治体再編論において注目されるのは、道州制の導入が、「国と地方の政府のあり方を再構築する者と位置づけられ」ていること、換言すれば、道州制の導入は、単なる自治体再編にとどまるものでなく、わが国の「国のあり方」=国家統治機構=国家機能の再編の手段として位置づけられていることでした。道州制の実現を通じて再構築されようとしている新たな政府像の具体的内容が今後明らかになれば、果たしてそれが憲法的価値(基本的人権の尊重、人権保障のための統治機構、平和主義、地方自治の保障)に適合するものであるか、改めて検討することが求められることになるように思います。 |
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