タイトル
HOME >> Information Service >> No.58
ライン
タイトル
Information Service

【No.58/2006.1.24】

最近の地方債資金の変化とその問題点

岩波一寛
(中央大学名誉教授)
│1│2

注】2006年4月から地方債の発行が許可制から合意制に変わりますが、財政投融資制度の再編や郵政民営化問題とも関わって、自治体の資金調達は既に公的資金から市場依存へと大きな変化を見せています。今回の報告では、地方債資金をめぐる動向を整理していただき、それが自治体にとって何を意味し、何が問題であるのかについて検討をしていただきました。自治体の市場化・民間化が何をもたらすのかを考える上でも重要な論考です。なお、図表については当初使用のものを編集部の責任で新しいものに差し替え、その説明を加えてあることをご了解ください(編集部)。

はじめに

 最近、地方債の資金をめぐって大きな変化が出てきています。そして、この変化は、今後進展していくことが十分考えられます。そのことは地方債の起債にとってだけではなく、地方財政の運営にとっても、かなり大きな問題を持つことになりましょう。その辺りの事情を少し検討してみたいと思います。

T「三位一体」地方財政改革下の地方債大量発行

 地方債は、小泉「三位一体」改革が推進されてきた過程で、いったいどんな動きをしているのか、ひとまず、地方債の発行総量と累積残高の推移を見てみましょう。

(1)小泉「地方財政改革」の矛盾のシワ寄せとしての地方債の活用(直接要因)

@「三位一体」改革の矛盾のつじつまあわせとしての地方債
 地方債問題は、形式的には「三位一体」改革の枠組みの外におかれています。しかし、実質的には、国庫補助金減額を埋めきれない税源移譲や、地方交付税の抑制が惹き起こす地方財政の財源不足などの矛盾を、地方債でつじつまあわせされるという形で関係しています。  また、この「三位一体」改革の過程で、地方債発行の総額は大きく減っている状況にはありません。縮小傾向は、地方財政計画の規模全体が縮小していることに対応しているわけです。

図1

 図1−1を見ると、(94年以前は増加傾向)毎年度の地方債発行額が増加傾向をたどって高止まり、03年をピークにしてその後は減少傾向となっています。05年度の総額(計画)は、15兆5500億円、06年度は13兆9500億円と更に縮小しています。しかし、図1−2(『地方財政白書』平成17年度版より)に見るように、その残高は依然として増え続けています。新規発行額が償還額よりも多いので残高は増え続けているわけです。
 こう見てみると、財政体質の健全化を目指すはずの「三位一体」の地方財政構造改革が進められてきたにもかかわらず、地方債への依存体質は、依然として大きな問題となっていることが分かります。 言うまでもなく、地方債に依存するのは、地方財政が経常的収支尻での赤字を出し、それを埋めるために臨時的歳入としての地方債に頼るということなのです。
 ところが、実際の地方債の発行は、そういう本来的な財政措置としてではなく、さまざまな起債理由と法的根拠に基づいて発行され、しかも、特定財源でかつ経常的収入という形態をとっています。したがって、地方財政赤字との関係が明確でなくなる恐れがあるのです。現実の財政運営においては、地方債の財政赤字問題が見失われ、安易にこれに依存する傾向を維持あるいは助長してきていると言えます。

図-2

 最近の、地方債問題の歩みを追ってみると、そのことがよく判ります。そして、三位一体構造改革の中で進められている地方交付税の減額、国庫補助金の削減などの引き起こす矛盾を、臨時財政対策債など多様な地方債発行で埋めるような政策的手法が横行しているのです。
A市町村合併の誘導手段としての地方債の政策的利用
 あるいは三位一体構造改革と並行して推進されてきた市町村合併の誘導策として、合併特例事業債の大盤振る舞いにそれを見ることができます。
 それらの地方債は、財政法第5条の適債事業を拡張するために特別法を設けるとか、地財法33条に特例法を追加して発行されたのです。

(2)「三位一体」地方財政改革は、地方財政赤字体質を温存(基本要因)
 いうまでもなく地方債問題は、本来は地方財政赤字問題です。したがって、地方財政改革は、その赤字体質を建て直すことにあるはずです。しかし、「三位一体」地方財政改革は、そうした本来の地方財政改革とはなっておらず、表−1から分かるように地方財政の赤字体質、地方債依存体質は基本的には変わっておりません。むしろ、増大しているのです。
 小泉地方財政改革は、国の財政負担を削って地方に押しつけており、地方財政の健全化に逆行しています。最も基本的な現在の地方財政赤字問題はここにあるのです。

表-1

U 地方債資金の変化―地方債資金も「官から民へ」―

 地方交付税の「臨時財政対策債」への振り替え、合併特例債の発行などによって(図1−2を見ると、棒グラフの一番上の黒い部分が臨時財政対策債であり、急拡大を示しています)、投資的経費の縮小に比べて、地方債の起債総量がそれほど縮小しないことに加えて、最近の変化として注目しなければならないことは、地方債の財源の変化です。公的資金が急速に減らされて、それに代わって民間資金が急速に増大してきていることです。

(1) 公的資金(政府資金と公営企業金融公庫資金)の急減
 戦前・戦後を通じて、日本の地方債は公的資金に依存して発行されることが大きかったのです。戦前は、おしなべて市中の地方債資金が乏しい中で、いわゆる「郵便貯金の地方還元」ということが大義名分として要求されて、民間資金に余り頼れない地方債に、この公的資金が充当されることが続いてきました。
 終戦直後、アメリカの占領下においては、地方債は100%公的資金によって手当されました。 その後、高度成長からごく最近に至るまでは、多少の変動はありましたが、ほぼ一貫して公的資金は地方債資金の60%程度を占め、民間資金は40%程度でした。いわばこれが、戦後日本の伝統的な地方債の資金配分の状況だったのです(図1−1、表2参照)。

表-2

 それが、小泉改革によって急速にその公私の資金比重が逆転し、小泉内閣が発足した2001年では、公的資金(政府資金+公庫資金など)が約60%(59.3%)であったものが、図1−1でみると、2006年度計画では、40%を下回り37.7%にまで低下しています。つまり、民間資金の比重が60%となり、かつての公的資金の割合と完全に逆転したことを示しています。日本の地方財政の歴史の過程を振り返ってみてもこれは大きな変化であって、注目に値します。その変化については、図1−1および表−2における推移をごらんください。

(2)市中資金(都銀、地銀、第2地銀、信金、信組、農協、その他の資金)の急増
 間接金融が主体で、しかも、金融集中メカニズムが定着し続けてきた戦後日本の金融情勢下で、地方自治体への融資は、民間金融機関からは歓迎されませんでした。しかし、不況期に企業の金融需要が低下して、資金需給が緩和すると、地方債資金の市中依存度が増やせられるという、御都合主義なところもありました。この基調は変わっていないでしょう。
 また、民間資金による地方債の起債について、公募市場債の拡大が推進されています。しかし、地方債の市場流動性を決定する日本の公社債市場の現状からみて限界があります。表−3のように売買総額3000兆〜5000兆という膨大な取引が行なわれていますが、国債が90%以上で、地方債は2%程度に過ぎません。それも、東京都など巨大地方自治体の地方債に限られているからです。共同発行といっても限界がありましょう。

表-3

U 地方債資金の変化―地方債資金も「官から民へ」―

(1)財政投融資改革、郵政民営化、そして政府系金融機関の統廃合
 地方債の財源が大きな変化を遂げることになった直接的契機は、言うまでもなく一つは財政投融資制度の改変です。とりわけ、その中でも資金運用部資金が廃止されて財政融資資金に移行し、その過程で郵貯・年金の資金の資金運用部への預託義務が廃止されたこと。そして、両公的資金が原則として市場で自主運用され、例外的に地方自治体への融資が認められることになったことです。上記の表−3および図−3(この図は郵便貯金についての図ですが、簡保もほぼ同様)のように財政融資特別会計では、1998年に郵貯・簡保・年金の資金の義務預託は廃止されました。
 表−4(資金運用部資金と財政融資資金の主要項目のバランスシート)を見てもわかるように、そのため預託資金は急速に減少し、必要な資金は財投債を発行して調整されるようになりました。その財投債は言うまでもなく政府保証の準国債として発行され、それを郵貯・簡保の資金で購入するような余地が残されていて、間接的ながら公的資金の新しいかたちの財投制度となっています。それが地方自治体の融資に回されうるということにはなっています。これは大きな変化と言わなければなりません。
  財政融資資金の運用状況を見ると、資金源の財投債への依存が増大すると同時に、地方債への資金運用の増大は抑えられてきていることが分かります。
  今後、郵政民営化が推進されれば、この動きは加速し、地方債への公的資金減少と起債条件の悪化によって、起債や公債費負担は厳しさを増すに違いありません。

図-3

表-4

 

<<BACKNEXT>>