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【No.56/2005.9.28】

ホワイトカラー・イグゼンプションとその問題点

堀 浩介
(東京南部法律事務所)

労働問題についても、規制改革・緩和が進行している。現行の「裁量労働制」を更に拡大し、ホワイトカラーで「裁量性」の高い仕事に従事しているものについて、労基法における労働時間規制の適用を除外することが検討されてきた。「残業」を行っても、賃金の支払いをしなくてもよいという「算段」である。経団連も、今年の6月に「ホワイトカラー・イグゼンプションに関する提言」を発表し、露骨な圧力をかけている。アメリカにおけるホワイトカラー・イグゼンプション制度とは何か。日本における導入はどのような問題を引き起こすのか。この問題に詳しい堀浩介さんに基礎的知識の整理を含め、問題の所在を論じて頂いた(編集部)。

【1】ホワイトカラー・イグゼンプションと制度とは何か

 2002年7月に政府の総合規制改革会議がアメリカのホワイトカラーイグゼンプションの制度を参考にしながら、裁量性の高い業務について労働時間規制の適用除外を適用することを検討すべきであると提言し、これを受けて2003年12月の労働政策審議会建議がアメリカのホワイトカラー・イグゼンプション等についてさらに実態を調査した上で、今後検討することが必要であるとして以来、ホワイトカラーイグゼンプション制度の導入の是非が我が国においても重大な問題として浮上してきた。
 特に、本年に入って、3月に政府の規制改革・民間開放推進3カ年計画が閣議決定され、その中で、2004年8月に改正規則が施行されたアメリカのホワイトカラーイグゼンプション制度を参考にしつつ、現行の原稿裁量労働制の適用対象業務を含め、ホワイトカラーの従事する業務の内、裁量性の高いものについては、労働基準法の労働時間規制の適用除外とすることを検討するとしている。そして、この閣議決定を受けて、4月には、「今後の労働時間制度に関する研究会」(座長諏訪康雄法政大学大学院教授)が発足し、本年12月に報告書をまとめる予定である。こうした政府側の動きに歩調を合わせるように、日本経団連も、6月に、「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」を発表し、アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション制度の適用の要件をさらに広げて、広範なホワイトカラー労働者を労働時間規制の適用から除外し、長時間労働に対する規制を撤廃し、さらには時間外手当を奪おうとする姿勢を明示している。こうした現状を放置すれば、12月にまとめられる研究会報告書において、我が国にもホワイトカラー・イグゼンプション制度を導入すべしという意見が打ち出されるのは必至の情勢といえよう。
 しかし、今なお、我が国の労働者・労働組合の中では、ホワイトカラー・イグゼンプション制度がどのような制度であるのか、十分に知られていない嫌いがある。そこで、本稿では、アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション制度を紹介するとともに、その問題点を説明したい。 

【2】アメリカにおけるホワイトカラー・イグゼンプション制度の概要

 日本の労働基準法に当たるアメリカの連邦公正労働基準法(以下、FLSAという)は、労働者の権利として、最低賃金と並んで、割増賃金の権利を定めている。即ち、FLSA第7条は、1週間40時間を超える労働時間(overtime)について、通常の賃金の1.5倍の賃金の支払い(pay)を保障している。これは、"time-and-a-half"として知られる権利である。
 その一方で、FLSA第13条は、ホワイトカラー・イグゼンプション制度を定めている。同制度は、いわゆるホワイトカラー労働者について、一定の条件の下で、この割増賃金支払制度の適用を除外する制度である。すなわち、@俸給水準テスト(salary-level test 毎週ある一定のレベル以下の収入しかない労働者については、イグゼンプト、すなわち割増賃金を支払われない労働者とはできないこと)、A俸給テスト(salary-basis test 時間当たり賃金ではなく、1週間、1か月あるいは1年間の固定した賃金を支払われていなければ、イグゼンプトはできないこと)、B職務要件テスト(duties test 労働者の職務が基本的性格において、管理職的、運営職的、専門職的でない場合には、イグゼンプトとはできないこと)、の3つの要件に従って、労働者を割増賃金を受け取る権利のある労働者とそうでない労働者を区別するのである。
  FLSA13条に基づいて、1939年に連邦労働省(以下、「DOL」という。)が規則(Code Of Federal Regulation 以下、「CFR」とする。)を定め、上記の3つの要件を具体的に明らかにした。従来、イグゼンプトの要件は、俸給額の多寡によってさらに2つの類型に分けて規定されていた。一つは、俸給が低額の場合に適用される原則的要件(long-test)と俸給が高額の場合に適用される簡易的要件(short-test)である。
 アメリカでは、イグゼンプトは大きく3つの類型に分けられてきた。管理職イグゼンプト(executive exempt)、運営職イグゼンプト(administrative exempt)、専門職イグゼンプト(professional exempt)である。なお、FLSA第13条は、この3つの類型以外に、コンピュータ労働者イグゼンプト(computer employee exempt)、外勤労働者イグゼンプト(outside sales exempt)を定めている。
 このうち、管理職イグゼンプトは、新規則では、@給与は週給、月給、年俸での支払いで、週455ドル以上であること、A主たる(primary)職務が企業あるいは慣習的に認識される企業の一部局あるいは部署をマネジメントすること、B習慣的かつ原則的に、2人あるいはそれ以上のフルタイム労働者あるいはそれと同視できる者の業務を指示すること、C他の労働者の雇用、解雇、昇進、昇格その他労働者の地位の変更に関する提案あるいは推薦が企業内において特別の比重が置かれていること、が要件とされる。従来、上記要件の内、@の要件が原則的要件では155ドル、簡易的要件では250ドルであったことから、かなり広範な管理職労働者がイグゼンプトとされていた。しかし、新規則においても、週給455ドルという要件に照らせば、例えば、外食産業の店舗の店長など、上記A、Bの要件を満たして、管理職イグゼンプトとされる可能性が高い。
 実際、私が本年、日本労働弁護団の調査チームのメンバーとして渡米し、ワシントンのシンクタンクであるEPI(Economic Policy Institute)の政策責任者Eisenbrey氏からヒアリングした結果によれば、週455ドル、年間2万3660ドルの基準はアメリカにおける4人家族の最低生活ラインより1年間で5000ドルしか上回っていないとのことである。こうした労働者が割増賃金の権利を奪われても保護に欠けるところはないとは到底言えない。同氏も、個人的にはイグゼンプションの対象は年間4〜5万ドルの所得を最低の基準とすべきであると述べられていた。
 次に、運営職イグゼンプトは、@給与は週給、月給、年俸での支払いで、週455ドル以上であること、A主たる職務が使用者やその顧客のマネジメントや一般的な仕事の指示に直接に関係する事務的あるいは非マニュアル的な労働からなること、B主たる職務が裁量性があり、独立した判断の行使を含み、その判断が重要なものとして一定の注意を払われていること、が要件とされる。ここには、かなり広範囲のホワイトカラー労働者が含まれてきた。運営職イグゼンプトの範囲はかなり広い。例えば、保険金請求調査官(いわゆるアジャスター)、金融サービス業に従事する労働者は運営職イグゼンプトとされる。
 専門職イグゼンプトは、学識専門職イグゼンプトと創造専門職イグゼンプトに分けられる。新規則では、前者は、@給与は週給、月給、年俸での支払いで、週455ドル以上であること、A主たる職務が先進的な知識を要する仕事であり、支配的性格において知的で、一貫して裁量と判断を必要とする仕事を含むものと定義される仕事からなること、B先進的な知識は科学あるいは学識分野における知識であること、C先進的な知識は長期過程の専門的知識教育によって獲得できるものであること、が要件とされる。一方、後者は、@給与は週給、月給、年俸での支払いで、週455ドル以上であること、A主たる職務が芸術的な企ての一般に認識された分野における発明、想像力あるいは才能を必要とする仕事からなること、が要件とされる。ここには、正看護師、公認会計士、シェフ、アスレティク・トレイナー、埋葬業者(学識専門職イグゼンプト)、俳優、作曲家、ジャーナリスト(創造専門職イグゼンプト)が含まれる。
 また、これら以外に、教師、法律業務及び診療業務に従事する労働者(弁護士、医師)もイグゼンプトとされる。これらの労働者については、前記の俸給水準テスト、俸給テストが適用されない。

【3】我が国における労働時間規制の例外との対比

(1)「管理・監督者」

 我が国の労働基準法第41条2号は、時間外・法定休日労働の割増賃金の支払いの例外として、「監督若しくは管理の地位にある者」を認めている。この「管理・監督者」に対応するのが管理職イグゼンプトである。「監理・監督者」の行政解釈は、「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべき」としており、判例は、職務内容・責任、労働時間管理の態様、処遇などを重視して判断すべきとする。そして、主任、店舗の責任者・店長、営業職の課長、建設会社の現場監督等について、いずれの「管理・監督者」には当たらないとしている(『注釈労働基準法下巻』756頁から762頁)。
 このように、「管理・監督者」は厳格に解釈されているため、アメリカにおいては管理職イグゼンプトとされる労働者であっても、我が国においては労働時間規制の対象となるケースが多いと思われる。しかも、我が国においては、「管理・監督者」であっても、深夜業の割増賃金の支払いについては適用除外となっていない。FLSAにおいては、深夜労働に対する割増賃金の定めがないことを考え合わせれば、アメリカの労働者の法的権利の状態は我が国の労働者よりもかなり低いと言わざるを得ない。

(2)裁量みなし時間制

ア.企画業務型裁量労働制

 また、我が国の労働基準法第38条の4は裁量みなし時間制の一つとして、いわゆる「企画業務型裁量労働制」を定めて、企画業務型裁量労働に従事する労働者について、みなし労働時間が法定労働時間を超えない限り、時間外労働の割増賃金の支払いの対象から除外している。
 この制度に対応するのが運営職イグゼンプトであるが、企画業務型裁量労働制においては、その要件が「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とされている。
 運営職イグゼンプトの業務の内容に比して、事業の運営に関する事項についての企画、立案の業務を含む点で、適用対象者がより限定されていることが明らかである。また、対象労働者の範囲についても、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」でなければならず、しかも、厚生労働省が定める指針においては、「知識、経験等」について、大学の学部を卒業した労働者であって全く職務経験がないものは、客観的にみて対象労働者には該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た者でなければならないとされている。運営職イグゼンプトにはこうした要件は課されていない。
 さらに言えば、裁量みなし時間制の対象労働者であっても、法定休日労働や深夜労働に対する割増賃金の支払いを受ける権利を有する。FLSAにおいては、休日労働、深夜労働に対する割増賃金の定めがないことを考え合わせれば、アメリカの労働者の法的権利の状態は我が国の労働者よりもかなり低いと言わざるを得ない。
 また、適用に当たっても、当該事業場に設置される労使同数構成の労使委員会において5分の4以上の多数による議決がなければならない。アメリカにおけるホワイトカラー・イグゼンプション制度の導入にはこうした手続要件が課されていない。このため、使用者が労働者の反対というリスクを冒してでも、労働者をイグゼンプトに分類してオーバータイムを支払わないケースがあり得ることになる。

イ.専門業務型裁量労働制

 専門職イグゼンプトについて言えば、我が国の常識から見て、何故こうした労働者がイグゼンプトとされたのか、疑問に感じる労働者が数多く含まれている。先に挙げた正看護師、アスレティック・トレーナー、埋葬業者、教師などである。
 この専門職イグゼンプトに対比されるのが、我が国の労働基準法第38条の3が定める「専門業務型裁量労働制」である。しかし、同制度は、対象となる業務を厚生労働省で定める業務に限定されている。その業務の種類は、専門職イグゼンプトの例として挙げられているものよりも明らかに狭い。
 また、専門業務型裁量労働制の適用に当たっては、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、それがないときには労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要とされる。ホワイトカラー・イグゼンプション制度にはこのような手続要件は課されていない。

(3)まとめ

 以上の点に照らしても、アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション制度は、FLSAにおいて、休日労働、深夜労働に対する割増賃金の定めがない上に、さらに、その適用対象者の面でも、適用の手続面においても、我が国の適用除外あるいは裁量みなし時間制よりも緩和された要件を定めていることが明らかである。

【4】なぜ、こうした制度を導入しようとするのか

 アメリカにおけるイグゼンプトは、1999年度においては、全雇用労働者の21%を占めているとの統計が発表されている。この数値を見ても、アメリカの労働者が我が国の労働者に比して著しく割増賃金を受け取る権利を奪われていることが明らかである。そして、この点が、コスト・カットによる収益の増大という制度導入の政府・経済界の意図・目的を雄弁に物語っていると言えよう。
 もちろん、先に触れた日本経団連の提言には、こうした意図・目的が正面から語られてはいない。提言は、ホワイトカラー・イグゼンプション制度導入の目的について、仕事と生活の調和を図るためには、多様な勤務形態の中から効率的で自らが納得できる働き方を選択できるようにすべきであるとする。つまり、現行の労働時間規制が、労働者が効率的で自ら納得できる働き方を選択する上で障害となっているとし、労働時間規制を撤廃することでこうした障害をなくしていくとするのである。
 また、今後の労働時間制度に関する研究会の討論において、厚生労働省の賃金時間課長は、「自律的」な働き方の含意として、事業の高度化、高付加価値化の下で、労働者が創造的・専門的能力を発揮するというイメージを提示し、労働時間規制がその障害となるという認識を示している。また、研究会に参加している厚生労働省の審議官は、これまでの労働時間規制が集団的な取り決めの中で、モノラルな働き方を選択せざるを得ない、他律的な枠組みであったと総括している。
 しかし、現行の労働時間規制、わけても時間外労働、休日労働、深夜労働に対して割増賃金の支払を求める規定は、使用者によるコスト増を招くことはあっても、それが効率的で自ら納得できる働き方を選択する上で障害になっていると認識している労働者が一体どの程度存在するというのであろうか。そこには明らかにまやかしがある。
 我が国においては長時間労働が横行し、かつ、アメリカでは特段問題とされていない過労死・過労自殺という深刻な社会現象が存在する。労働時間規制を撤廃しても、自ら労働時間を決めることができる労働者、自律的な働き方を自ら選択する力のある労働者はわずかである。しかも、労働基準法は裁量みなし時間制を定めており、その対象労働者には、みなし時間が法制労働時間を超えない限り、割増賃金を支払う義務を負わないのである。それにもかかわらず、敢えてホワイトカラー・イグゼンプション制度を導入しようとする意図・目的は、自律的な働き方を自ら選択できない労働者についても、市場経済のグローバルな展開により24時間化しているビジネスの必要性に対応して、文字通り「効率的」に働かせ、さらにこれに対する割増賃金の支払い義務からも免れたい、そのためには現在の労働基準法の労働時間規制が障害となるということ以外には考えられない。前記研究会において、厚生労働省は、労働時間規制を適用除外するなど弾力的な労働時間制度を用意しないと「労使双方」が主体的に自律的な働き方を選択することができないともしている。つまり、「働かせ方」のニーズにもこたえていないという問題意識である。政府の立場と経済界の立場は符合しているのである。

【5】労働時間規制を排除する「自由な」労働契約

 ところで、研究会の論点整理では、「労働条件の重要な要素である労働時間については、労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への対応が求められている。」としているが、これについて、討議に参加している厚生労働省の審議官は、労働条件の中で労働時間について自律的にコントロールするためには、労使対等による労働条件の決定という条件を確保した上で、労働時間を労働者が使用者と自由に合意できる法制にしていくべきであるとの意見を述べている。
 04年4月から労働契約法制の在り方について検討してきた厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の最終報告書でも、労働契約法を制定する目的として、「労使当事者がその実情に応じて対等な立場で自主的に労働条件を決定することができ、かつ、労働契約の内容が適正なものになるような労働契約に関する基本的なルールを示すことが必要である」とする。
 しかし、現実には、使用者と労働者は到底対等とは言えず、「自由な」労働契約というイデオロギーの下、結果として使用者の意のままに決定された内容の労働契約を締結せざるを得ない労働者がほとんどである。
 そして、このことは、事業場における労働者の代表が選任され、その代表者が使用者との間で労働条件に関する合意をすることで直ちに解決するものではない。「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の最終報告書では、労使当事者が対等な立場で自主的に労働条件を決定するための制度として、労働者が集団として使用者との交渉を行うことができることとするために、事業場に常設の労使委員会を設置することを提案している。
 しかし、日本労働弁護団の7月25日付意見書が明らかにしているように、労使が対等の立場で労働条件を決定するためには、労使が当事者としてそれぞれ独立し、対向的立場に立っていることが大前提である。そのためには、何より使用者から完全に独立した「労働者代表制度」が一方当事者として設定されねばならない。具体的には、「労働者代表制度」は使用者からの独立性が確保され、権限が法によって保証されなければならない。そうでなければ、単に使用者による実質的決定を容認・追認するだけのものとなりかねない。
 ところが、研究会最終報告書では、当該事業場における全労働者が直接複数の労働者委員を選出することを提案したり、委員であること等を理由とする不利益取扱の禁止などを提案しているが、現行の過半数代表の選出が民主性、代表性の担保を欠いている実態に対する問題意識を欠如したままである。そこで、常設の労使委員会を設置し、その決議をもって労働条件の変更を認めるならば、結果として、使用者による実質的決定を容認・追認するだけになり、労使対等の労働条件決定という美名の下で、労働者の権利が次々と奪われる危険性が極めて高い。
 先に示した日本経団連の提言は、これが決して杞憂ではないことを示す一例となっている。すなわち、同提言では、現在の専門業務型裁量労働制が適用される労働者について、アメリカのホワイトカラーイグゼンプション制度に倣って、年収基準を導入し、年収400万円以上700万円未満(または全労働者の平均給与所得以上、上位20%未満)の労働者については、労使委員会の決議によって対象業務を追加できるとしている。労使委員会の決議によって、年収400万円あるいは平均所得以上の労働者は、割増賃金の権利、深夜・休日労働からの保護を全て奪われてしまうのである。

【6】まとめ

 アメリカにおけるホワイトカラー・イグゼンプション制度は、使用者が極めて広範な労働者から割増賃金の権利を容易に奪うことを制度として保証したものである。しかも、この制度は、労働時間規制の適用除外を認める制度であるため、これが我が国に導入された場合、労働者は単に割増賃金の支払いを受ける権利が奪われるに留まらず、際限のない時間外労働、休日労働、深夜労働にさらされる危険が生じる。このことは、我が国に特有の現象とされる長時間労働とこれに起因する「過労死」、「過労自殺」を一層増加させるという悲劇をもたらすものである。
 労働基準法の時間外労働、休日労働、深夜労働の規制は、労働者の健康で文化的な生活を制度的に保証するために設けられたものである。この原点を見失うことがあってはならない。ホワイトカラー・イグゼンプション制度を我が国に導入することは必ず阻止しなければならない。今必要なのは、長時間労働の原因を究明し、それを止めさせるための法制度の構築である。