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【No.50/2005.2.17】

日本における地方自治体改革

三橋良士明
(静岡大学教授・研究機構代表委員)

 本稿は、昨年末ベトナムにおいて開催されたベトナムと日本の行政改革に関する国際シンポジウムにおいて、三橋教授が他国の学者を念頭に置いて、日本の地方自治体改革の問題について大局的に報告をした原稿に若干手をいれて頂いたものです。コンパクトでありながら、原則的視点がもりこまれており、大変に参考になります。短い文章なので、是非、学習会などにご活用ください(編集部)。

はじめに

 このところ、日本では、新自由主義的な考えに基づく「この国のかたち」づくりとして、地方自治体改革が早いテンポで進行中です。世紀を跨いで実施された地方分権改革は、明治維新、戦後改革に次ぐ「第3の改革」といわれています。その後の5年間、政府は「平成の市町村大合併」と自治体行政の市場化・民営化を推進してきました。2004年3月に発足した第28次地方制度調査会では、道州制、大都市問題、2元代表制の見直しなど、次なる地方自治制度改革の本格的検討が始まっています。
本稿は、日本国憲法の保障する地方自治の視点から、日本の地方自治体改革の現状と問題点を検討して、これからの地方自治・自治体のあり方を考えようとするものです。

  1. 日本国憲法と地方自治

1 憲法原則としての地方自治

 第2次世界大戦後の1947年に施行された日本国憲法は、国民主権、平和主義、基本的人権の保障、議会制民主主義とともに、地方自治を憲法上の基本原則として保障し、4カ条の条文を置いています。日本国憲法が立法者をも拘束するものとして、憲法上の保障を与えた地方自治の意義として、以下の点が重要です。
 その第1は、地方自治の憲法的保障の根拠は国民主権の原理にあるということです。日本国憲法は、その前文において、「国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と定めています。この国民主権原理は、国家権力の帰属と政治支配の正統性が国民にあること、すなわち国政における国民の自己統治を意味します。主権者たる国民は地域社会では住民であり、地方自治は主権者たる住民による地域社会の自己統治を意味します。このような国民主権原理の現われである地方自治が憲法上保障されたことの画期的意義は、地方自治体が、国とは別の地域的な統治団体として位置づけられたことです。かくして主権者である国民・住民は、国の統治体系と地方自治の統治体系という二重の統治体系をもつことになり、それらの統治体系はいずれも、国民・住民の基本的人権を保障するための手段として存在するのです。
 第2に、憲法92条は、地方自治体の組織と運営が「地方自治の本旨」に基づき法律で定められるべきことを定めています。「地方自治の本旨」とは、「団体自治」と「住民自治」のふたつの原理を意味します。すなわち、団体自治とは、国から独立した法人格をもつ地域的統治団体がその地域社会の公的事務を自己の責任において処理することであり、住民自治とは、一定の地域社会の公的事務を住民みずからの意思に基づいて自主的に処理することです。かくして、団体自治の原理からは、国と自治体とは、上下の指揮監督関係にあるのではなく、独立・対等な関係にあることが導かれ、住民自治の原理からは、主権者住民の意思が当該自治体の組織・運営に適正に反映されるべきことが求められるのです。
 第3に、憲法94条は、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定して、地方自治体に自治的な権能として、広範な行財政権と自治立法権を保障しているのです。最高裁判決(1963年3月27日)も、憲法上の地方公共団体と言いうるためには、「単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体的意識をもっているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を付与された地域団体であることを必要とするものというべきである」と述べています。

2 地方自治の現実

 以上のような地方自治に関する憲法原則は法律によって具体化されることになりますが、地方自治に関する憲法規定が必ずしも一義的確定的なものでないことから、戦後に制定された地方自治法や地方財政法、都市計画法などの関係法令の仕組みや現実の行政運営においては、地方自治の憲法原則にもとるところが多々みられました。
 例えば、機関委任事務制度です。機関委任事務制度とは、国の事務を自治体の長その他の執行機関に委任して執行する制度であり、それらの事務の委任を受けた自治体の長等は、それらの事務を執行するにおいては「国の機関」とみなされて、国の強い指揮監督に服することになっていました。機関委任事務制度は2000年に廃止されましたが、それまでは、機関委任事務制度を核として、国の自治体に対する強いコントロールの仕組みがあり、実態として、国と自治体の関係は、「上下・主従の関係」であり、中央集権的統治システムでした。また、都道府県は、戦後憲法の下で完全自治体になったのですが、実際には、市町村自治体に対して、国の代行機関的役割を果たしてきました。
 住民自治を具体化する制度としては、国レベルにはない直接民主主義的な制度である直接請求制度や住民訴訟制度が設けられた意義は大ですが、なお、制度上の不十分なところが相当ありました。それにもかかわらず、公害や環境問題をはじめ、まちづくりの多彩な住民運動のなかで、自治体の条例制定権を活用することにより、環境アセスメントや都市計画策定過程の早い段階での住民参加手続きの制度化、情報公開の制度化、住民投票制度の創設など、住民自らが自治体の政治・行政過程に参加し、自治体を監視・コントロールする仕組みづくりが活発に取り組まれてきました。
 以上のように、わが国の地方自治制度は、団体自治と住民自治を含む憲法上の制度として、原理的には旧憲法下の中央集権的な地方制度から大転換したにもかかわらず、法制度上事実上、なおも国の広範な後見的監督が残存し、さらに高度経済成長主義政策や開発主義的利益誘導政治によりいっそう中央集権的傾向を強め、これに対抗する住民運動や革新自治体とのあつれきを生んできました。日本国憲法の下で新たな地方自治制度がスタートして半世紀余が経過し、その間、地方自治制度はさまざまの改革にさらされてきました。本稿では、1990年代に始まる「地方分権改革」から現在に至る地方自治制度改革の動向とその問題点を述べることにします。

  1. 日本における自治体改革の現段階

1 第1次地方分権改革の到達点

 第1次地方分権改革とは、1993年の衆参両院の地方分権推進決議と同年10月の第3次行政改革審議会最終答申に始まり、地方分権推進法(1995年制定)に基づき設置された地方分権推進委員会の5次にわたる勧告を経て、地方分権一括法(2000年施行)としてまとめられた一連の地方自治制度改革のことです。改革者たちは、明治維新、戦後改革に次ぐ「第3の改革」と評価し、また「未完の改革」と総括する。
 この地方分権改革は、「国から地方へ」と「官から民へ」をスローガンに進められてきました。「国から地方へ」とは、国の事務・事業を地方に移譲し、中央集権的な行政システムを分権型システムに変えることです。「官から民へ」とは、行政事務・事業の民間化・規制緩和を図ることであり、地方分権改革は、両者がセットになって実施されてきました。
 第1次分権改革により実現した主な改革は、第1に、国と地方自治体の役割分担を明確にしたことです。自治体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担任し、住民に身近な行政はできる限り自治体に委ねることを基本とすることが地方自治法に明記されました。一方、国は、(1)国際社会における国家としての存立にかかわる事務、(2)全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動もしくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務、(3)全国的な規模でもしくは全国的な視点に立って行わなければならない施策・事業の実施その他国が本来果たすべき役割を重点的に担任することとされました。一般的な法原則としてはもっともな規定ですが、そこには政府の意図する「スリムで強い」国家像が見え隠れすることが問題です。というのは、日本政府は、これからの中央政府の役割を国際的な課題への対応などに特化し、国民生活関連行政を縮小しつつ自治体に任せて、スリムな総合戦略国家・国際貢献国家をつくろうという大きな枠組みの中で地方分権改革を進めてきたからです。
 改革の第2は、機関委任事務制度を全面的に廃止して、自治体の処理する事務を「自治事務」と「法定受託事務」に区分したことです。これまでの中央集権的行政システムの中核であった機関委任事務の廃止により、自治体が国の下請け機関の地位から解放されたことは改革の画期的成果であると評価されています。しかし、機関委任事務とほぼ同様の国の強い関与が認められる法定受託事務が広範に制度化されたこと、事務事業の移譲は都道府県を中心に行われたに止まること、事務事業の移譲と地方財源保障問題が切り離されたことなど、多くの問題点が残りました。
 第3は、自治体に対する国の関与等について新たなルールを定めたことです。関与の基本原則として、法定主義、必要最小限の原則、関与手続きの透明化が明記され、新たな事務区分に対応した関与の基本類型が定められました。また、国の関与に不服があるときは、自治体は国地方係争処理委員会に審査を申し出ることができ、その審査結果に不服があるときは裁判で争うことができるようになりました。かくして、なお効果的な国の関与の仕組みは残るものの、事前関与の縮小が図られ、その結果、自治体の自主的法令解釈権の範囲が拡大されたと解釈できることは評価されてよいでしょう。
 ところで、憲法原則を基準に地方自治改革を考えるとき、団体自治の拡充と住民自治の拡充が課題となるが、第1次分権改革では、団体自治の拡充方策に重点が置かれて、住民自治の拡充のための改革は着手されなかった。また、団体自治の拡充策としては、当初の目標であった事務事業の移譲ではなく、関与の縮小に改革の主眼が置かれる結果となった。しかも、その関与の縮小はなお法形式上の改革にとどまることから、その運用における実質化が今後の課題として残されたといえる。

2 市町村合併の推進と都道府県の広域的再編

 地方分権一括法の制定により第1次分権改革に一応の区切りがつくと、政府は、「市町村合併推進指針」(1999年)を出して、市町村合併を強力に推進し始めました。政府の目標は、3200余の市町村自治体を5年間で1000にすることであり、合併促進のための各種の優遇的措置を講じて、市町村合併を誘導しました。
政府の合併推進理由の第1は、地方分権の推進です。地方分権改革をさらに進めていくためには、地方分権の受け皿として、基礎的自治体の自立性とその行財政基盤の強化を図る必要があるという理由です。第2に、国・地方の破綻的財政事情のもとで、簡素で効率的な地方行政体制を整備し、国の地方に対する財政負担を軽減することです。第3に、少子高齢化の進行が特に小規模な市町村に与える影響は深刻であり、過疎化した小規模自治体では、これまでのような行財政基盤を維持できなくなり、総合行政体としての役割を担うことが困難になるという理由です。
 この間、アメとムチの財政的措置を講じて合併を強要してきた結果、市町村自治体数は2000前後までに減るものと予測されるが、政府の掲げた目標の達成は困難な状況です。もともと市町村合併は、手続き的には自治体の自主的な判断に委ねられていること、政府のいう「地域の自立」は自治体単位で「受益と負担」の関係を明確にする仕組みづくりであり、それは自治体と住民の財政的負担増を意味すること、合併すれば地域の自立と発展が保障されるわけではないことなどの理由から、合併せずに自立的発展を求める自治体や合併の是非を住民投票で決めようとする住民運動が全国的に広がってきました。
 このような状況のなかで、2003年11月、第27次地方制度調査会は、「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」を首相に提出し、また2004年3月には第28次地方制度調査会がスタートして、次なる地方自治制度改革の本格的検討が始まりました。
 次なる改革の焦点は、広域自治体である都道府県の再編です。第27次地方制度調査会は、都道府県を廃止して道州制にすべきであると提言しました。その理由は、第1に、市町村合併により市町村の自立が進むと都道府県の補完的事務が縮小していくこと、第2に、広域自治体の役割として地域産業の振興、雇用確保政策、環境保全・国土保全などの広域的課題への対応がいっそう重要となり、その課題に応えるためには、都道府県の区域の拡大が必要であること、第3に、国の地方出先機関の事務・権限を地方に移譲するための受け皿としての広域自治体が求められることなどです。
 以上のような道州制導入のねらいは、「スリムで強力な国際貢献国家づくり」のために国の事務事業の受け皿としての広域自治体づくりであり、市町村と都道府県の2層制からなる戦後地方自治制度の解体と再編を意味します。そもそも地方自治制度のあり方には歴史性と多様性があり、日本における地方自治の歴史性と各地域の多様性を考慮するならば、憲法の描く地方自治の充実のためには、都道府県自治体の基礎自治体に対する自治支援機能を維持・拡充することが今後も求められているように思います。

3 市場原理による自治体行政の変容

 地方分権改革が行政の民間化・規制緩和とセットで推進されていることは先に述べた通りですが、そのベースになっているのが新自由主義的改革思想です。新自由主義的改革思想とは、国家資源の配分を「市場」の「自由競争」に委ねることにより効率化と経済成長が実現するという考えです。政府は、「民間にできることは民間で」というスローガンを掲げて、自治体行政の市場化・民営化を推進しています。その手法として、規制緩和、行政事務の民間への委託、PFI制度、公の施設の指定管理者制度、NPMなど多様な手法が用いられています。しかも「構造改革特区」制度により一国多制度的に用いられています。かくして、このような市場原理に基づく行政の市場化・民営化は、住民の現代的生存のために必要なユニバーサルサービスを切り捨て、自治体行政の公共性を変容させるものとなっています。

おわりに

 私は、日本のこれからの地方自治改革は、憲法的公共性をより充実する方向でなされるべきであると考えます。
 第1に、自治体行政の憲法的公共性=存在意義は、住民の基本的人権、権利自由を直接または間接に確保・実現するためにあることから、地方自治改革は、住民生活の全領域にわたる権利自由、そして環境権、交通権などの新しい権利を含む各種の人権を拡充する方向でなされなければならない。
 第2に、地方自治の核心は住民自治=民主主義にあることから、地方自治改革は、住民の自治体参加と自治体に対する監視・コントロ―ルを強め、住民自治をいっそう活性化する仕組みづくりでなければならない。
 第3に、地方自治体の自治行財政権、自治立法権の拡充が図られるべきであり、自治行政権と自治財政権の統一的把握が求められる。
 第4に、地域間の不均等発展、地域間格差を内包する現代経済社会にあっては、国には国民・住民の現代的生存に必要なナショナルミニマムを確保する行政責任があります。国と自治体は、並立的対等な関係であることを前提として、国と地方自治体の適正な役割分担と適正な関係をどのように築いていくかが重要な検討課題です。